教育と脳科学

教育再生会議第2次報告・「脳科学」の謎

 ひさしぶりの教育国会論戦を文部科学委員会で行った。先に触れたように「教育再生会議第2次報告」が6月1日に発表された。何度か読みにくい第2次報告の文章を読んでいて、妙に気になったのが「親学」は消えたが、「脳科学」という表記が残っていることだった。「脳科学」とはいったい何か、文部科学省の最新の認識を問いながら質問を開始した。

 ベネッセの『BERD』No.01 2005年 で

 脳科学は一般の関心が高いだけに、特に教育への応用となると、耳目を引く部分だけが拡大解釈されて誤解を生む恐れはありませんか?

という質問に小泉英明氏は次のように答えている。

 そこはたいへん重要な問題です。必ずしも一般の方々だけではなく、脳科学の研究者自身にも一部、誤解が生じています。先に述べたように、脳科学の中でも専門分野が細分化されていて、脳全体をシステムと捉えて研究する人々は非常に少ない。ところが、一般的に関心を呼ぶ話題というのは、脳全体をシステムとして扱わないと答えが出ない問題ばかりなのです。すると、一見、専門家の意見のようでいて、必ずしもそうではない、ということが起こります。
 典型的な例は、「神経細胞の数は年を取るにしたがって減っていく」という"定説"です。厳密に言えば、そのような事実を確認した研究者は世界で一人もいません。第一次視覚野の神経細胞の数の経年変化を追った研究者はいましたが(大変な仕事です)、その結果は、数の減少はほとんど見られませんでした。脳の全体については、誰も調べたことがないので、分からない。これが科学的事実です。
 確かに、fMRIの画像を見ると、加齢による脳の萎縮が観察できます。しかし、だからと言って、神経細胞が死んでいるからだ、と単純に結論付けられません。脳にはグリア細胞という充剤がたくさんありますから、これが萎縮すれば当然、脳全体が萎縮します。最も確からしいのは、神経細胞から出ている樹状突起が萎縮してくる可能性です。ですから細胞としての数は変わらない。そのあたりがどうも本筋らしいのですが、誰もまだ確認していません。
 我々が今、いくつも同時進行している「脳科学と教育」に関する研究プログラムで注意しているのは、現在の脳科学の知識で「既に分かっている所」と「まだ分かっていない所」を明確に区別して情報発信することです。この原則を厳密に守らなければいけません。

 小泉氏の

 現在の脳科学の知識で「既に分かっている所」と「まだ分かっていない所」を明確に区別して情報発信することです。この原則を厳密に守らなければいけません。

という指摘を念頭においておかないと「脳科学」が様々なものと安易に結び付けられることになる。それは朝食を摂れば云々というのと同じだ。科学の成果は成果として生かすことは必要だが、その成果を安易に利用してはいけない。教育の分野では、最近そういうことが目に付くようになってきた。気をつけなければいけない。