教育におけるアカウンタビリティーの問題

 時事通信の「内外教育」メールマガジンからの引用。

アカウンタビリティーの影─米国では》聖徳大学特任教授 牧 昌見

 アカウンタビリティー(説明責任)の時代といわれる現代の米国では、一人の落ちこぼれも出さないことを目指したものの、実施したテストの結果が示す数値重視の学力向上策が、皮肉にも最も手助けを必要とする子供たちをネグレクト(無視)しているとして、批判の的になっている。
 いわゆる落ちこぼれ防止法(No Child Left Behind-NCLB- Act)は、2001年に成立した連邦法で、すべての州で国語(英語)と算数のテストを第3学年に在学している子供たちを対象に行っている。年間を通じて十分な学力の向上が認められないと、要改善学校のレッテルを張られる。つまり学校と教師に結果責任を求め、底上げを図る「テストに向けて教える教師」であるかどうかをはっきりさせようとしている。
 求められる水準をパスできなかった子供たちの割合(合格率)のいかんで教師をランク付けするため、明らかにパスできない子供は進級させないようにしたり(原級留置)、特別支援を要する子供たちにはテストを受けなくてもよいグループに入れたり(免除者)、中には夏休みや土曜、放課後等に補習を行ったりしているといわれる。
 問題は、教育版トリアージ(選別)にあるようだ。この傾向は、アカウンタビリティー重視の下で深まり、逆に「落ちこぼし」を増やしているとみられる。もともとトリアージは戦場や救急、環境といった問題に限られていたが、今や多くの学校がNCLBへの対応としてテストにパスできそうな子供たちを優先して“救済”するため、特別に補習授業を行うことに専念するまでに発展しているところがあるという。
 そうでないと、要改善学校のレッテルを張られて、教員評価や学校予算に影響してくる。アカウンタビリティーの負の側面である。わが国でも、東京都足立区立の小学校の不適切な対応が顕在化している。全国学力テストへの各学校の取り組みが気になるところである。

 日本でもアメリカと同様のことが起こらないという保証はどこにもない。今後の動向には注意しておかなければいけない。