学力テストの課題

 澤田利夫「望ましい全国学力調査のあり方」『指導と評価』3月号2007年より以下引用。

 全国いっせいに行う学力調査では、事前の練習効果等に影響されないようにという配慮から、各年度の出題には共通問題が含まれないのがこれまでの通例であった。一九六〇年代の文部省学力調査の各年度の報告書には、領域別に成績を算出し、当初の予想に対してどうか、前年度の類似の問題と比較して成績の分析が加えられているが、前の調査との共通問題がなく、年度ごとの学力の伸長を測る尺度がないことが欠陥であり、限界でもあった。同様のことは、大学入試センター試験問題とその結果の発表を見れば明白である。
 この種の調査には多くの制限があり、学習指導要領の内容に準拠していて、調査問題は基礎的、標準的なものからの出題になる。現行の学習指導要領で扱われている内容は最低基準であり、この範囲での出題となれば、おおむね40%未満の正答率が期待される問題は今回の調査では出題しにくい。

(中略)
 学力の推移を見るのであれば、同一問題の成績で比較するのがよいが、過去の全国一斉調査ではそれが一題もなかった。練習効果を排除するためらしいが、これが全数調査での出題の仕方でもあり、欠点でもある。
 今回の全国学力調査には、知識・理解の多くの部分に過去の同一問題を積極的に出題してほしい。それによって、学力の推移を検証し、学力が本当に低下しているかを見る絶好の機会だと思うからである。

 仮に、学力調査は順調に行われたとしても、母集団の特定と問題作成の適否が、のちの結果の解釈に大きな影響を及ぼす。
 悉皆の学力調査は、地域学校の序列化や差別化につながり、ゆがんだテスト準備対策、欠損値(参加しなかった児童生徒の学力)の解釈、学校や学校長・教師の評価、さらに調査の信頼性等、種々の課題をかかえている。
 実施のうえからも、調査結果の解釈のうえからも、標本調査に比べてあまりにもリスクが多すぎると筆者は考える。そして、情報公開と秘密保持のはざまに立って、教育関係者は大いに困惑することが目に見えている。
 学力調査は、学習指導要領に示した目標や内容に照らして児童生徒の学習到達状況を把握し、今後の教育施策に役立てることを目的として行うのであれば、標本調査で十分であり、繰り返し行われることによって学力の推移も容易に調べることができるのである。