教育委員会関係(メモ)

昭和23年6月18日 参議院 文教委員会 議事録より引用

○國務大臣(森戸辰男君) 今回政府より提出いたしました教育委員会法案につきまして、その提案の理由及び本法案制定について、政府のとりました根本方針を御説明いたします。
 先づ本法案が制定されるに至りました経緯を御説明いたしたいと思います。各種の教育刷新の施策の一つとして、終戰後間もなく教育行政、特に地方教育行政の在り方について改革の必要が叫ばれ、政府におきましても愼重に研究を重ねたのでありますが、教育刷新委員会におきましても、教育行政の改革を我が国教育民主化の一重要支桂と考えられ、愼重審議の結果、これに関する建議を内閣総理大臣あて提出いたされました。又米国教育使節團報告書にも、教育行政の改革について極めて有意議な勧告が提出されておるのであります。一方昨年三月三十一日公布施行されました教育基本法は、その第十條におきまして、「教育は、不当な支配に服することなく、國民全体に対し、直接責任を負つて行われるべきものである。教育行政は、この自覚の下に、教育の目的を遂行するに必要な諸條件の整備確立を目標として行われなければならない。」と規定いたしてありますが、教育基本法は、教育憲法或いは教育宣言とも申すべき性格を有する法でありますので、教育行政改革の方針は、前述の規定に基きまして、その方向付けがなされたものと考えられます。教育刷新委員会の建議の趣旨、米国教育使節團報告書に示された貴重な勧告、及び教育基本法の規定する方針に基きまして、政府において関係各方面と連絡の上、愼重研究の結果、地方教育行政に関する根本的改革を企図する本法案を提出するに至つた次第であります。
 次に今回のこの法律を制定するに当つて、政府のとりました地方教育行政改革の根本方針につきまして申述べたいと思います。教育の目的は、個人の尊嚴を重んじ、眞理と平和を希求する人間の育成を期するにあることが教育基本法で宣言されておりますが、この教育の目的を達成するために行政が、民主主議一般の原理の下に立つ在り方としては、権限の地方分権を行い、その行政は公正な民意に即するものとし、同時に制度的にも、機能的にも教育の自主性を確保するものでなければならないのであります。
 先ず、教育行政の地方分権としては、都道府縣、市、東京都の特別区及び人口一万以上の町村に、それぞれ原則として権限上一般行政機関から独立した教育委員会を設置して、その地域の教育に関する責任行政機関といたしまして、從來国が教育内容の細部に亘るまで規定し、且つこれを監督していた態度を改めまして、教育の基本的事項のみを定めて、これが実際上の具体的運営は、これら委員会の手に委ねることとしたのであります。
 次に、前述の地域に設けられる教育委員会の委員の選任方法は、一般公選といたしまして、地方住民の教育に対する意思を公正に反映せしめることによつて、教育行政の御主化を徹底いたすこととしました。從つて地方の教育は、國の基準に従つて、地方民の代表者の手によつて、その地方の実情に即して行われることになるわけであります。
 最後に教育の本質的使命と、從つてその運営の特殊性に鑑みまして、教育が不当な支配に服さぬためには、その行政機関も自主性を保つような制度的保障を必要といたします。教育委員会は原則として、都道府縣又は市町村における独立の機関であり、知事又は市町村長の手に属しないのでありまして、直接國民にのみ責任を負つて行われるべき教育の使命を保障する制度を確立することにいたしました。
 以上三つの眼目が、本法案制定に当りましてとられた根本方針であります。この法案は、すでに実施を見ております新学制を初め、その他の教育刷新に関する諸施策を急速に促進すると共に、他面後に続く諸改革の強力な主桂となるべき重要な意義を持つものであります。この法律は一應本年七月一日より施行いたしますが、日下実施途上の六・三制の完成及び地方財政の実情等に鑑みまして、町村及び特別教育区については、その実施を尚二ケ年延期いたすことにいたしております。從つて本年は都道府縣と市及び東京都の特別区教育委員会のみ実施いたしまして、これらの委員会の委員の第一回の選挙は、本年十月五日に行うことにいたしてあります。何とぞ愼重に御審議の上、御決議あらんことをお願い申上げる次第でございます。尚詳細の点につきましては、関係官から御説明申上げることにいたします。

○政府委員(辻田力君) 只今文部大臣から教育委員会法案制定の経緯と、その根本方針につきまして御説明がありましたが、私からこの法案の内容につきまして重要な事項を中心に、概要を漸次御説明いたしたいと思います。
 先ずこの法案は五章に大別されまして、七十一ケ條の本則と二十七ケ條の補足で合計九十八ケ條になつております。第一章は総則といたしまして、第一條にこの法律の目的たる教育委員会設置の理由を規定いたしてあります。これは只今大臣から御説明のありましたように、この法律の根本方針と同一の趣旨と考えられるのであります。第三條は教育委員会の設置の範圍を規定してあります。その中、人口一万以下の町村につきましては、町村の一部事務組合の一種である特別教育区というものを設け、ここに教育委員会を置くのであります。人口一万以上の町村の決め方は、別に政令で告示いたすつもりであります。尚本年度は、都道府縣と東京都の特別区と市にだけ教育委員会を置きまして、その他の地域の教育委員会につきましては、二年間その実施を延ばすこととなつておるのであります。これにつきましては附則の第七十三條及び第七十四條で規定してあります。第四條では教育委員会の権限につきまして包括的に規定してありますが、地方公共團体及びその長の権限に属していました教育、学術及び文化に関する事務と、將來法律又は政令により地方公共團体又はその教育委員会の権限に属すべき、これら前述の事務とを教育委員会は管理し又執行するのであります。ただ大学と私立大学につきましては、これらに関する別の法律で特別に教育委員会の権限さされるものを除きまして、原則としては教育委員会の所管外とするのであります。
 第二章は教育委員会の組織についての規定でありますが、更に委員会の委員、委員会の会議、それに教育長及び事務局に関する三つの節を設けておるのであります。先ず第一節は第六條で、委員の定数は都道府縣委員会にあつては七人、地方委員会にあつては五人と規定いたまして、その中、一人は当該都道府縣又は市町村の議会が議員の中から選挙し、他の委員は、都道府縣又は市町村の日本國民たる住民がこれを直接に選挙することになつておるのであります。第七條で委員の任期は四年といたしてありますが、執行機関でありますために、委員全部が一時に交替することを避けまして、政策の一貫性を図るため、二年ごとに半数交替することにいたしてあります。第八條から第二十八條までは委員の選挙に関する規定でありますが、二十八條に規定いたしてありまするように、この教育委員会の委員の選挙は、概ね地方公共團体の議会の議員の選挙について規定しておりまする地方自治法を準用いたすことになつておるのであります。これと異ります特別規定のみをここに規定しております。その主なるものは、被選挙権の制限として、委員会の本旨に鑑みまして、現職の教員と專門的な教育関係の職員を除外すること、候補者はすべて選挙人六十人以上の推薦によること、いわゆる再選挙、補欠選挙をできるだけ避ける趣旨から、当選人の比較多数制と補充委員の選任という規定を設けたこと等であります。第二十九條は地方公共團体の議会の議員の解職請求の例に倣つた規定であります。第三十一條で、委員は実費弁償を受けることができますが、報酬はこれを受けないことになつております。第二節は委員会の会議について規定してありますが、定例会は毎月一回これを開くこととし、会議は國民の面前で明るく公正に行う趣旨からいたしまして、開催の場所、日時、議案の予告と会議の公開を規定してあります。会議の定足数は在任委員の半数以上といたしまして、委員会の開催を容易にすること、会議規則を設けること等を規定してあります。第三節は、教育長及び事務局について規定してあります。第四十一條に規定する教育長は、一般公選による委員が素人たることを予想されるのと相対照する教育行政の專門家であります。從つて一定の資格を有することが要求されております。尚暫定的には附則で任用の範圍を規定しております。その任期は四年で、教育委員会が任命いたすのであります。教育委員会には事務局が置かれますが、その部課は適当に定めることにしてあります。ただ仕事の重要性と專門性に鑑みまして、調査統計に関する部課と、教育指導に関する部課を設置すべきことを規定してあります。更に事務局に置かれる職員の種類、任務等につき、この節に規定してあります。
 第三章では委員会の職務権限について定めてあります。第四十八條では所管の範圍、第四十九條では委員会の取扱う事務のうち、主なものを列挙してありますが、学校その他の教育機関の設置、管理、校長、教員の人事、教育内容、教育予算、社会教育等が主なるものであります。これは都道府縣と市町村等の委員会に共通の事務でありますが、都道府縣委員会はこの外に特別な事務を行うことが、第五十條で規定してあります。第五十二條で教育委員会規則と称する規則の制定権が委員会に附與されております。第五十五條から第五十九條までは教育費の編成と執行についての規定でありますが、教育費を地方の一般財源に仰ぎつつ、尚教育費の保証を図るために、大体最高裁判所等の予算編成に関する例に倣つたわけであります。第六十條から第六十二條までは、地方公共團体の経費負担に関する事項は、その意思機関である議会の決定に俟つ必要があり、特に收入支出の均衡に関係があるため、これらに関する事項を纏めて規定したものであります。尚新制の高等学校の普及とその機会均等を図るための措置として、府縣内を数個の通学区域に分けることといたし、その規定を第五十三條で、又國と地方を通ずるいわゆる縦の関係につきましては、年報その他必要な報告書の提出という形で行うことといたし、これに関する規定を第五十四條で、それぞれ規定してあります。
 第四章は、特別教育区に関する補則規定であります。近代教育の発達は、特に学校教育を高度化、複雜化いたしまして、人的、物的施設の量質の両面の充実を要求して参つております。このことは同時に教育行政の基礎單位として、一定の廣さと充実さを持つた地域が必要であり、この観点から見て、我が國の町村中には教育行政の基礎單位として狭小、且つ新たな教育の使命に耐えないものがあると存ぜられます。從つて一定の規模にこれらの町村を合しまして、教育行政の單位とするのが、特別教育区の考え方であります。特別教育区にその行政機関として教育委員会を置くことは、第三條に規定してありまして、地方委員会として、その組織及び権限は同樣でありますが、尚補充すべき規定を本章で規定いたしたのであります。先にも申述べましたように、特別教育区については二年後に実施することにいたしてあります。
 第五章は雜則として校長、教員、学校の事務職員及び教育委員会の職員の身分取扱に関する規定を定めてあります。附則はこの法律の施行について必要な事項や、経過規定を纏めて定めてありますが、その主なるものは、第一、この法律の施行期日は本年七月一日。第一回の委員の選挙は本年十月五日に行うこと。第二、町村及び特別教育区に設ける教育委員会の実施は二年後であること。第三は、法律施行から選挙を経て委員会成立までの経過規定。第四は、知事又は市長村長から教育委員会への事務引継ぎの規定。第五は、身分関係の措置。第六は、この法律の実施に伴なつて学校教育法、地方自治法等の改正を要する点についてその改正規定を規定したのでございます。
 大体主要な点につきまして概略御説明申上げた次第でございます。

昭和31年3月14日 衆議院 文教委員会 議事録より引用

清瀬国務大臣 今回政府から提出いたしました地方教育行政の組織及び運営に関する法律案について、提案の趣旨を御説明申し上げます。
 この法案は、現在の教育委員会制度を改正いたしますとともに、地方公共団体における教育行政の組織、運営に諸種の改善を加えようとするものでございます。
 御承知のごとく、地方公共団体における教育事務は、その一部を除き教育委員会が担当しているのであります。この教育委員会は、まず昭和二十三年秋都道府県、五大市及び若干の市町村に設置され、昭和二十五年秋また若干の市に設置された後、昭和二十七年秋に至って全国すべての市町村に置かれたのでありまして、いわゆる六・三制の実施、教科内容の改善、社会教育の振興等に漸次その成果をあげて参ったのでございます。しかしながら、教育委員会制度は、占領下早急の間に他の諸施策とともに、採用、実施せられた制度でもあり、検討を加えなければならない問題を数多く包蔵しているのでございます。昭和二十七年全市町村に教育委員会が設置された後も、教育委員会制度に対する改正意見が、公の機関やその他の機関または団体からいろいろと述べられて参った次第でございます。
 政府は、かねてより、これら諸種の見解を慎重に研究し、教育委員会の実情をもいろいろと検討をいたして参りましたが、この際現行の制度を再検討すべきであると考え、現行制度のとるべき点はとり、改むべき点は改め、加えるべき事項はこれを付加して、新たな立法を行うこととし、この法案を作成いたした次第でございます。
 この法律案を提出いたしますについて、特に考慮を払いました重点は、次の二点でございます。
 第一に、地方公共団体における教育行政と一般行政との調和を進めるとともに、教育の政治的中立と教育行政の安定を確保することを目標といたしたのでございます。
 わが国の教育は、地方公共団体の努力に負うところがきわめて大きいのであります。すなわち、国立及び私立の学校を除いて小中学校の義務教育はもとより、高等学校、幼稚園さらには大学に至るまで市町村や都道府県の手によって維持経営されておるのでありまするし、青少年教育、婦人教育をはじめ、各般の社会教育もそれらの地方公共団体の手によって推進されているのであります。したがって、わが国の教育の振興をはかりますためには、これらの地方団体における教育行政の運営が中正かつ円滑に行われることが必要であります。
 知事や市町村長は、申すまでもなく、民主的な公選による機関でありますが、本来独任制でありますから、教育のごとく中立を要求せられる事務については、別に会議制機関をもって事務を担当せしめる必要があります。
 しかしてすでに述べましたごとく、教育の振興のために、わけても義務教育の普及をはかりますために教育に関する事務の相当な部分を市町村が担当しているのでありまして、学校その他の教育施設の整備だけでなく、学校の運営を管理助成し、教職員の指導に努め、社会教育の振興をはかる上には、この市町村に期待するところ大きいものがあります。その上町村合併の進展の結果、市町村の行政能力は、強化されようとしているのでありますから、この法律案は、都道府県のみならず、すべての市町村に会議体の執行機関として教育委員会を存置することといたしました。なお、従来の運営の実際にかんがみ、その組織及び権限に必要な改正を加えたのであります。すなわち、委員の選任方法は直接公選の制度を改め、地方公共団体の長が議会の同意を得て任命すること等の措置を講ずるとともに、教育委員会と知事や市町村長との間の権限に調整を加えることといたしたであります。すなわち、いわゆる予算案、条例案の二本建制度を廃止しますとともに、教育財産の取得及び処分の権限、教育事務にかかる契約の締結の権限、収入または支出の命令の権限を知事や市町村長に移すことといたして、両者の関係を調整し、地方公共団体における教育行政の円滑な運営とその振興をはかりたい所存であります。第二にこの法案の重点といたします点は、国、都道府県、市町村一体としての教育行政制度を樹立しようということであります。わが国の教育は前にも述べました通り都道府県、市町村の個々の地方団体の努力に負うているのでありますが、それらは決して個々独自のものではなく、全体として国の教育を構成すべきものでありますから、まずもって、国の教育としての必要な水準を保持するものであることの必要であることは、いうまでもありません。さらにまた各都道府県ごとに、府県内の教育運営の調整がはかられなければならないことも、もちろんであります。
 この点を考慮いたしまして、現行の教育委員会法が、個々の地方団体ごとの教育事務の処理を強調しているにとどまるのに対し、この法案では次のごとく是正いたしておるのであります。すなわち、小中学校の教職員等の人事権を都道府県の教育委員会が行使することとしたのであります。これは、一つには、これらの教職員の適正な配置と人事の交流を促進するということを考慮したものであります。さらに、給与の負担団体と任命権者の属する団体とを一致させることとしたものであります。御承知の通り、教育委員会が市町村に設置されてから、都道府県内の教職員の適正配置に支障が生じたことは、広く各方面から指摘されたところであります。このことは、市町村の設置する学校でありましても、個々の市町村ごとに人事を管理することが無理であることの証左でありまするし、また現在都道府県が小中学校の教職員の給与を負担いたしておりますことも、市町村の担当する義務教育等の振興をはかる上に、都道府県の協力が必要であることを物語っているものであります。
 今回、小中学校等の教職員の任命権を都道府県委員会に担当させようとしますことは、これらの学校の運営を円滑に行う趣旨にほかなりません。しかしながら、都道府県の教育委員会が単独でこの任命権を行使いたすことは、事実上困難でございますので、市町村の教育委員会の内申をまって行うことといたすとともに、市町村立学校における教育は当該市町村の事業であること、これらの教職員は当該市町村に属する職員であるとすることからして、市町村の教育委員会は、これらの教職員の服務の監督を行い、その職務の遂行の適正を期すべきものといたしておるのであります。
 このほか、文部大臣及び教育委員会相互の間の関係を次のように考えておるのでございます。
 現行制度のもとにおきましては、文部大臣や都道府県委員会は、都道府県または市町村に対して技術的な指導、助言または勧告の範囲を越えることはできないこととされているのであります。このような現状を改めるため、文部大臣や都道府県教育委員会の積極的な指導的地位を明らかにいたしますとともに、文部大臣は、教育委員会地方公共団体の長の事務処理に、法令違反等の事由がある場合には、必要な是正措置を要求して、教育行政の適正な運営を確保いたしたい所存であります。また教育長の任命につきまして、文部大臣なり、都道府県の教育委員会の承認を要することといたしたゆえんのものは、教育委員会における教育長の地位に照らし、これにより教育行政の国、都道府県、市町村一体としての運営を期したいと考えたからにほかなりません。
 以上が、この法案の基本的な考え方となっているものであります。
 なお、最後に、五大市に対する特例と、この法律の施行期日について簡単に付言をいたします。
 五大市に対しましては、この法律で、教職員の人事権を大幅に法定委任いたしましたが、それは五大市の規模と能力にかんがみ、実情に即させようとする意図に出たものであります。
 また、現行制度からの移行を円滑ならしめるため、本法の施行期日を本年十月一日といたしました。
 なおただいま、地方教育行政の組織及び運営に関する法律案の提案理由と、その趣旨を御説明申し上げたとおり、同法案によって、教育委員会の委員の選任方法は公選制によらず任命制に改められ、市町村立学校の教職員の任命権は都道府県の教育委員会に属せしめられることとなり、さらに教育長の選任方法に変更が加えられるほか、教育財産の取得及び処分を地方公共団体の長が行うものとすること、文部大臣及び教育委員会相互の関係を明らかにし、指導機能を強化するとともに文部大臣の教育に対する責任を明確にすること等の措置がとられることになりますので、これに関連して、多数の関係法律との調整をはかる必要が生ずるのでございます。ここにそれら所要の規定を取りまとめて、この法律案を提出した次第であります。
 以上、簡単でございますが、この法案の提案理由を御説明申し上げました。
 何とぞ、地方教育行政の組織及び運営に関する法律案とあわせて、慎重御審議の上、すみやかに御賛同賜わらんことをお願い申し上げます。

○緒方政府委員 地方教育行政の組織及び運営に関する法律案の概要につきまして補足して御説明申し上げます。本法律案は、地方公共団体における教育行政が適切に行われることを期しておるものでありまして、その趣旨に基き教育委員会の設置及び組織、教育委員会及び地方公共団体の長の職務権限、学校その他の教育機関の設置及びその職員の身分取扱い、文部大臣及び教育委員会相互間の関係等、地方教育行政の組織及び運営の基本となるべき事項を広く規定いたしております。これに伴って、現行の教育委員会法は廃止されることとなっております。この法律案は、本則六章六十一カ条、附則二十五カ条からなっておりますが、以下その内容につきまして章を追ってその要点を説明いたします。第一章においては、この法律の趣旨を規定いたしました。この法律案が、地方公共団体における教育行政の組織と運営の基本的事項を定め、教育本来の目的達成をはかることを目的とする旨であることを明らかにしたものであります。第二章においては、教育委員会の設置及び組織について必要な規定が定められております。第一節では、教育委員会の設置、委員及び会議について規定しております。まず、教育委員会は、都道府県及び市町村はもちろん、教育事務の全部または一部を共同処理する市町村の一部事務組合にも置くものとし、委員会は五人の委員で組織することを原則としておりますが、町村またはその一部事務組合にあっては事情により三人の委員で組織することができることといたしました。
 委員の選任方法につきましては、従来とって参りました委員の公選制度を改めまして、地方公共団体の長が議会の同意を得て、地方公共団体の長の被選挙権を有する者のうちから任命することといたしました。次に、地方公共団体における教育行政の運営が中正と安定を保ちかつ円滑に行われることを目標として教育委員会を設置するものでありますから、任期四年の委員を毎年一部ずつ改任する方途を講ずるほか、委員がその任にある間におきましては、地方公共団体の議会の議員、地方公共団体の長、その他の職員と兼ねることを禁止し、また委員の構成が一党一派に偏することのないよう常に、五人の委員で組織する委員会にあっては三人、三人の委員で組織する委員会にあっては二人以上、すなわち委員の過半数が同一政党に所属する者で構成されることのないよう配慮いたしました。その他委員が政党その他の政治的団体の役員となり、または積極的に政治運動を行うことを禁止するほか、委員の服務、欠格条項、解職請求等について必要な規定を設けました。
 第二節では、教育長及び事務局の組織について所要の規定を設けております。教育長の任命に当り、都道府県の教育長は文部大臣の、市町村の教育長は都道府県教育委員会の承認を得るものといたしましたのは、地方公共団体の行う教育行政に国または都道府県としておのずから必要な水準の維持と調整をはかり、国、都道府県及び市町村一体としての教育行政制度を樹立するため、教育委員会における教育長の地位にかんがみ、その人選に適切を期せんとする趣旨に出たものであります。
 なお、市町村の教育長について委員のうちから選任することといたしておりますのは、機構の簡素化をはかったものであります。その他教育委員会の権限に属する事務を処理させるための事務局の設置、事務局の内部組織、指導主事その他の事務局職員の設置、その職務、定数に関する規定、その他職員の身分取扱いについて所要の規定を設けました。
 第三章においては、教育委員会及び地方公共団体の長の職務権限について必要な規定を定めました。地方公共団体の長と教育委員会との調和を進めるため、従来、教育委員会の権限とされていた教育財産の取得及び処分の権限、支出命令権、教育事務のための契約の締結権は、これを地方公共団体の長の権限とし、予算案、条例案についてのいわゆる二本建制度は廃止して、両者の権限を明示し、地方公共団体における円滑な教育行政の運営を期待しようとするものであります。しかしながら、教育委員会の所掌事務にかかる歳入歳出予算その他特に教育に関する事務について定める条例その他の事案につきましては、教育委員会の意思の反映をはかるため、その議案を作成する場合に地方公共団体の長は、教育委員会の意見を聞かなければならないことといたしました。
 その他教育財産の取得は、教育委員会の申し出を待って、地方公共団体の長が行い、長の総括のもとに教育委員会が管理するものといたしました。
 なお、実情に即応して教育行政が運営されますため、教育委員会の事務は、教育長、学校その他の教育機関の職員に委任できることとし、また、都道府県の教育委員会は、市町村の教育委員会に事務の委任を行い得る方途を購じ、委任事務について市町村の教育委員会を指揮監督できるものとすることといたしました。
 第四章においては、地方公共団体に設置される学校その他の教育機関について基本的な必要規定を設けました。地方公共団体が設置する学校その他の教育機関のうち、大学は地方公共団体の長が、その他のものについては教育委員会が所管することを明らかにし、これらの教育機関の職員について、その設置、任命及び人事管理について必要な規定を設けるとともに、校長その他の教育機関の長に所属職員の進退について任命権者に意見を具申することができる旨の規定を設けて、これらの長の地位を明定いたしました。
 さらに、教育委員会は、その所管する学校その他の教育機関の施設、設備、組織編成、教育課程、教材の取扱いその他の教育機関の管理運営の基本的事項について必要な教育委員会規則を定めるものとする旨の規定を設け、この規則には学校における教科書以外の教材の使用について、教育委員会に届け出させ、または承認を受けさせることとする定めを設けるものとする旨の規定を設けました。
 次に、都道府県がその給料等を負担する市町村立学校の教職員の身分取扱いにつきまして、現行制度とは異なった人事制度をとることといたしました。昭和二十七年の市町村教育委員会の全面設置以来市町村の教育委員会が、その管理する学校の教職員の人事管理を行なってきたのでありますが、人事交流、任命権の行使と給与負担の調整等その運用の上において支障を生じている面もございますので、今回都道府県が給与を負担する教職員の任命権は都道府県の教育委員会が市町村の教育委員会の内申を待って行うものとし、必要に応じて都道府県の教育委員会は、その事務の一部を市町村の教育委員会に委任し、また市町村の委員長等に補助執行させることができることとする規定を設けました。従いまして、これら教職員は、身分は市町村の公務員でありますが、都道府県の教育委員会が任命権を行使いたします関係上、その任免、給与、分限及び懲戒に関する条例は、都道府県の条例で定めるものとし、市町村間を異動する場合においても、地方公務員法の分限規定にかかわらず特別の形式で取扱いができることといたしました。しかし、一方教職員は市町村が設置し管理する学校に勤務し、市町村の処理する教育事務に従事する職員でありますから、これら教職員の職務の執行が適正に行われているか否かという服務の監督は学校の管理者である市町村の教育委員会が行うことといたしますとともに、任命権者としての都道府県の教育委員会は、これら教職員の任免その他の進退を適切に行うことができるよう、市町村の教育委員会の行います教職員の服務の監督について一般的な指示が行い得るよう規定を設けました。
 その他これら都道府県がその給料等を負担する教職員の定数は都道府県の条例で定め、各市町村ごとの定数は、都道府県の教育委員会が市町村の教育委員会の意見を聞いて定めるものとし、その他職階制、研修、勤務成績の評定について規定するほか、地方公務員法の適用その他について必要な規定を設けることといたしました。
 第五章においては、文部大臣及び教育委員会並びに地方公共団体の長との関係について規定いたしました。従来、文部大臣の都道府県または市町村に対する関係及び都道府県の教育委員会の市町村の教育委員会に対する関係については、それぞれ地方自治法及び教育委員会法に技術的な指導助言または勧告をなし得る旨の規定があり、文部省設置法にも若干の規定が設けられておりましたが、地方公共団体における教育行政に対する国の指導的地位を明らかにし、国、都道府県及び市町村の教育行政は相連係して運営せられるべき態勢を樹立するために、ここに一章を設けて文部大臣及び教育委員会相互間の関係等について規定を設けました。
 まず、文部大臣は都道府県または市町村に対し都道府県の教育委員会は市町村に対し、必要な指導、助言または援助を行うものとし、その内容を例示いたしました。次に、文部大臣は、教育委員会または地方公共団体の長の教育に関する事務の管理及び執行が法令の規定に違反する等教育本来の目的達成を阻害しているものがあると認めるときは、教育委員会または地方公共団体の長に対し必要な是正の措置の要求を行うことができることとし、それが市町村長または市町村教育委員会の所掌にかかるものであります場合にあっては、都道府県の教育委員会をして行わせることといたしました。
 その他文部大臣は、これらの指導、助言、援助及び措置要求を行うため必要があるときは教育委員会または地方公共団体の長の執行する事務について調査を行うことができることといたしました。
 さらに、都道府県の教育委員会は、市町村の教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の組織編成、教育課程、教材の取扱いその他学校その他の教育機関の管理運営の基本的事項について、教育委員会規則で教育の水準の維持向上のため必要な基準を設けることができることとし、また都道府県内の公立の高等学校について、通学区域を定めることとしております。
 第六章においては、学校給食用物資の取得のあっせん、教育委員会と保健所との協力について所要の規定を設けましたほか、いわゆる五大市に対する特例等を規定いたしました。すなわち、指定都市に対しましては、都道府県の教育委員会が行使することとなります教職員の任免、給与の決定、休職及び懲戒に関する事務は指定都市の教育委員会に法定委任することとし、これら教職員の研修は、指定都市の教育委員会が行う旨を定めました。
 なお、指定都市の教育委員会の教育長につきましては、委員のうちから任命することとせず、都道府県の教育長と同様委員のほかから文部大臣の承認を得て教育委員会がこれを任命することといたしました。
 さらに、特別区に関する特例及び教育事務を処理する組合を設ける場合における必要な規定を整備いたしました。
 最後に附則といたしまして、この法律は、昭和三十一年十月一日から施行するものとし、教育委員会の設置及び委員の任命その他教育委員会の組織に関する関係規定は公布の日から施行することといたしました。
 現在教育委員会の委員である者は、昭和三十一年九月三十日までの間、同日以前にその任期が満了します委員につきましては、その任期満了の日まで、なお、委員として在任するものといたしました。委員のうち、議会より選出された委員につきましては、昭和三十一年九月三十日までの間、同日以前に公選による委員の任期が満了する場合にあっては、その任期満了の目まで、なお、委員として在任するものといたしました。
 この法律が公布になりますとき、すでに教育委員会の委員の選挙の告示が行われているものについては、選挙を行うこととし、この法律公布後昭和三十一年九月三十日までの間に委員に欠員を生じたときは、公選の委員が一人もいなくなったときを除いて、この法律の規定に従って同日までを任期とする委員を任命することといたしました。
 次に、現に教育委員会の教育長として在任する者は、昭和三十一年九月三十日までの間、同日以前に任期が満了した場合または公選による委員が任期が満了するかすべてが欠けたときはその日まで、なお、教育長として在任するものといたしました。
 以上、この法律案の概要について説明申し上げました。
 次いで、地方教育行政の組織及び運営に関する法律の施行に伴う関係法律の整理に関する法律案について、御説明いたします。
 この法律で整理をいたしております法律は、二十に及んでおります。いずれも、地方教育行政の組織及び運営に関する法律案(以下、新法と略称します。)の内容と関連する事項を調整し、もしくは、同法の施行に伴い新たに付加すべき事項を規定し、または不用規定を整理いたしたものであります。
 まず第一条においては、地方自治法の整備をいたしました。
 同法第二十条は、教育委員会の委員の選挙に関する規定でありますが、公選制の廃止に伴い、同条を削除いたしました。
 次に教育委員会の委員長に代表権が付与されたことに関連し、議会における説明のための出席義務を委員長といたしますとともに、教科内容という用語の変更に伴い、関係規定の用語の整備をいたしました。
 従来、助役は、当分の間教育長を兼ねることができるとされていました。新法により市町村の教育長は委員の中から選任されることとなりますので、この規定は削除すべきところではありますが、財政上の事情を考慮いたしまして、昭和三十二年三月三十一日までの間に限り、本則にかかわらず、助役は、教育長を兼ねることといたしました。
 本法第二条においては、恩給法に必要な調整を加えました。これは新たに発足いたします教育委員会の教育長、または事務局の職員についても、従前の教育長または事務局の職員と同様の恩給法上の取扱いをいたすこととしたのであります。
 第三条では、市町村立学校職員給与負担法に必要な調整を加えました。現在の同法第三条には、その給料等を都道府県が負担する市町村立学校の教職員(以下、県費負担教職員という。)の市町村ごとの定数は、都道府県の条例で定める定数の範囲内で市町村の教育委員会が定めることを規定しておりますが、今回、右の定数は、都道府県の教育委員会が、市町村の教育委員会の意見を聞いて定めることに改めましたので、これに伴い、同条を削除いたしました。
 次に、本法第四条においては、教育公務員特例法に所要の調整を加えました。市町村立学校の教職員の主要部分を占める県費負担教職員については、その任命権を都道府県教育委員会が行使することになりましたことに伴い、採用志願者名簿の制度はその意義を失いましたので、その制度を廃止し、規定の整備をいたすとともに、教育長の選任方法の改正、指導主事の資格の変更に伴い、教育長及び指導主事の任用資格を同法から削除いたしました。また、校長の任用資格に関する規定は、別途整備することとして整理をいたしました。その他教育長の給与、研修等に関する規定の整備または整理をいたしたものであります。
 第五条では、文部省設置法に所要の調整を加えました。新法に規定してあります文部大臣の権限、すなわち、文部大臣の教育委員会または地方公共団体の長に対する必要な措置要求と、都道府県及び五大市の教育長の任命にかかる承認の権限を文部省設置法に明定いたしました。
 第六条は、社会教育法の一部改正でありまして、従前の教育委員会制度が採用していた条例案その他の議案に関するいわゆる二本建制度等の廃止に伴いまして、社会教育委員の定数等に関する条例案、公民館設置条例案等に関する不用規定を整理いたしました。なお、現行第三十九条の公民館に対する指導助言は、公立公民館については新法の規定により措置することとし、私立公民館について規定した次第であります。
 第七条は、公職選挙法の一部改正でありまして、改正部分は同法中数十条にわたっておりますが、これらは、全部教育委員会の委員の公選制を廃止したことに伴い不用となった部分の整理でございます。
 次に、第八条から第十二条までは、図書館法、文化財保護法、産業教育振興法、博物館法及び青年学級振興法につき、指導、助言関係の規定を整備し、または準用規定の消滅に伴う不用規定を整理して、大体第六条と同趣旨の調整をいたしました。
 第十三条及び第十四条は公立学校施設費国庫負担法及び危険校舎改築促進臨時措置法の一部改正でございまして、これらの法律の規定に基く国の負担金または補助金の返還をさせる等の場合の釈明者は、現行制度においては教育委員会となっておりますが、新制度におきましては、地方公共団体の長が教育財産の取得を行うとともに、収入または支出の命令権者となることに伴いまして釈明者を地方公共団体の長に改めました。
 第十五条では、従来町村合併促進法に規定されていた教育委員会の委員の定数及び任期に関する特例を削除しました。この規定は、教育委員会の委員の公選制を前提といたすものであると考えられますので、かかる特例を認める理由に欠けることになったからであります。
 第十六条では、地方公共団体の組合教育委員会が全面設置されることに伴い、義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する法律中不用字句を整理いたしました。
 第十七条においては、教育職員免許法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理に関する法律附則中、教育長、指導主事及び校長の任用資格の特例に関する規定を、本決第四条の教育公務員特例法の一部改正で申し上げました趣旨から削除いたしました。
 第十八条においては、女子教育職員の産前産後の休暇中における学校教育の正常な実施の確保に関する法律中、県費負担教職員の任命権者の変更に伴う不用規定を整理いたしました。
 第十九条は、公立小学校不正常授業解消促進臨時措置法の一部改正でありまして、その趣旨は、本法第十三条及び第十四条と同様であります。
 最後に、第二十条は、地方財政再建促進特別措置法の改正でありまして、同法第九条は、地方教育行政の組織及び運営に関する法律中に同趣旨の規定が設けられましたことに伴い、これを削除したものであります。次に、附則でございますが、この法律は、新法と同様本年十月一日より施行することといたしておりますが、本法律案中、新法の教育委員会の設置関係規定に密接な関連のある部分、すなわち、委員の選任関係、新教育委員会の設置関係並びに教育長及び指導主事その他の事務局職員の人事に関する部分の改正規定のみは、新法の関係規定施行の日から施行することといたしました。
 附則第二項から第四項までは、県費負担教職員の定数条例、給与条例あるいは教育公務員の研修または兼職に関する許可についての経過措置を規定いたしたものであります。
 附則第五項では、旧法により恩給法の準用を受けていた旧教育委員会の教育長または事務局職員の恩給法上の取扱いについて所要の経過規定を設けました。
 附則第六項は、地方自治法の一部を改正する法律案との調整をはかり、いわゆる五大市について所要の読みかえ規定を設けたものであります。
 附則第七項は、この法律公布の日にすでに選挙期日が告示されている教育委員会の委員の選挙については、なお従前どおり選挙を行うこととしたものであります。
 附則第八項では、改正前の町村合併促進法の規定によって町村合併後引き続き選挙による委員として在任している者は、本来の公選委員同様本年九月三十日を限度として、それまでに町村合併促進法の規定により定められた在任期間が満了する場合は、そのときまで在任することができることといたしました。
 附則第九項では、従来教育長を兼ねてきた助役についての経過措置でありますが、この法律公布の日教育長を兼務している助役は、他の現に在任する教育長同様本年九月三十日を限度としてその任期中引き続き在任することを認めたものであります。
 以上、本法律案の概略を御説明いたしました。