1956年3月9日に出された声明

 教育は時の政治の動向によって左右されてはならず、教育の制度と方針はこれを政争の外において安定せしむべきであるが、最近文教政策の傾向はこの原則をあやうくするかに思われる。たとえば教育委員会について、あるいはまた教科書制度について、そのいわゆる改正案をみるに、いずれも部分的改正にあらずして民主的教育制度を根本的に変改するにいたるものであり、ことに教育にたいする国家統制の復活をうながす傾向の顕著であることは由々しいことといわねばならない。かかる傾向はやがて言論・思想の自由の原則をおびやかすおそれのあるものである。戦後、民主的な教育の制度と方針が創始されて未だ年月も浅く、各部面にわたって改善を要する点はあるとしても、その根本原則はこれを堅持しなければならない。もし法制上改正を要する点があるならば、政府はそのことを適当な審議機関に諮問して十分に審議をつくさしめ、またひろく関係方面の専門的意見を徴し、世論に耳を傾け、慎重審議の上においてはじめて法規の改正に着手し、これを国会の議にゆだねるべきであって、かりにも制度を根本的にくつがえすがごとき改正案をにわかに作成して国会に上程し、これが通過をはかるがごときは、厳に戒められなければならない。ようやくにして健全に育成せられつつある国民教育の前途を思い、憂慮にたえず、ここに有志相はかつて声明を行い、政府ならびに国会の反省をうながし、このことに関して世論のいっそうの興起を期待する。

 安倍能成学習院大学学長)、上原専禄(一ッ橋大学教授)内田俊一(東京工大学長)大内兵衛(法政大学学長)大浜信泉早稲田大学総長)木下一雄(東京学芸大学学長)南原繁東京大学元学長)務台理作(慶応大学教授)矢内原忠雄東京大学学長)蝋山政道お茶の水大学学長)