念力主義

発信箱:「念力」の時代?=藤原章生

 「念力主義」という言葉を外務省元主任分析官の佐藤優さんから聞いた。赤い下着をはいて臨めば、外交交渉で成功するとまじめに信じる外相がいたことなどを例に挙げていた。
 そんな折、ベストセラー「美しい国へ」(安倍晋三著)と「国家の品格」(藤原正彦著)を読んだ。いずれも「念力のすすめ」に思えた。美しいと念じれば美しい。あると思えば品格はある。人は幻想を抱えた動物だ。虚勢を張れということと読めた。でも、国が病んでいると思う人は念力で気が休まるだろうか。
 二つの本には共通点がある。著者が海外留学を経て「祖国を誇れない人は外国人に信用されない」という通説を実感したことだ。海外で武道に目覚めた人や、自転車で世界を回る若者からもこの通説を聞かされた。話してみると、底にはコンプレックスがある。そしてあるかどうかもわからないチャンバラ文化をよりどころにする。

 秋口には「教育基本法を改正したらこの国の教育は立ち直る」「教育基本法を改正したら青少年の問題は解決する」「教育基本法を改正したらこの国は愛国心あふれる国になる」と念じる姿があちこちで見られそうだ。あったのかどうかも分からない、「よかったあの頃の教育」を拠り所にしながら一心不乱に念じ続けるのだろう。
 その背景には、長期の経済の低迷で失われた「威信」を教育によって取り戻したい。だから出てくる言葉は「誇りを取り戻せ」「競争に負けるな」というものばかり。
 そういう「念力主義」の教育改悪がこの秋には本格化する。