学力低下は続くよどこまでも

小中学生「論理」が苦手 教育政策研の全国調査

文章書く学習、増やす必要=小中生に初の特定課題テスト−教育政策研

3+2×4=20? 四則計算、小6の4割誤答

学力テスト:漢字学習や書くこと、年齢とともに意欲低下

「子孫」は「こまご」…小中学生の学力調査結果を発表

羊毛→ひつじげ、子孫→こまご… 学力低下どうフォロー

 これらの記事からまず言えることは、いくつか挙げられている学力の課題はずいぶん前から繰り返し指摘されてきたものであり、それが今になっても課題として残っているということ。その理由は、学力テストがきちんとフィードバックされず、適切な対策も講じられてこなかったからだ。これは、いわゆる「ゆとり教育」や「ゆとり教育世代」だけの問題ではない。
 また、どの記事にも共通して言えることだが、教員がこれまで、どのようなものを課題と捉え、どのような指導をどのくらい行ってきたのかということが全く書かれていない。国立教育政策研究所がそういうことを発表していないのが理由かもしれないが、そういうことが分からなければ記事を読む側には何が問題なのか全く分からない。
 以下、記事を引用しながらもう少し考察してみたい。
読売新聞の記事では、

 今回初めて漢字の読み書きと作文(国語)、計算力と数学的考え方(算数・数学)に絞ったテストを実施した。

 それによると、漢字の読み書きの平均正答率は、小・中学生とも各学年で60〜80%台。小6で出題された「さんそ(酸素)」の書きは正答率約87%、中3の「けんぽう(憲法)」の書きも約88%に上るなど、他教科の学習でよく目に触れる漢字は正答率が高かった。

 これに対し、日常生活などで使う機会が少ない漢字には、正答率が極めて低いものがあり、「改行」の読みは小4で正答率約19%だった。「子孫」(小4)を「こまご」と読んだり、「ふるって(奮って)」(中3)を「奪って」と書いたりする誤答も多かった。

ということを指摘している。また、毎日新聞の記事では、

 漢字は読みと書きを50問ずつ質問。中2の約8割は小学校で習う「功績」や「展望」を正しく書けなかった。センターが分析したところ、日常生活や学習の場で使う頻度が低かったり、使う範囲の狭い漢字の正答率が低かった。

と読売新聞と同じようなことを指摘している。まず、日常生活や他教科の学びの中で読み書きするような漢字の正答率は高い。これは、「ゆとり教育世代」だけでなく、どの世代にも同じような傾向は見られる。
 毎日新聞では次のような指摘をしている。

 センターは「漢字はドリルなど形式的な反復練習を避け、実際の文章の中で取り上げたり、苦手な字を重点的に指導することも必要。日記や感想文で書くことに慣れさせるなど、意欲を高める指導を工夫してほしい」と話している。

 つまり、「基礎・基本」ということが盛んに言われ、ドリルが多くのところで取り入れられた。しかし、ドリルだけに偏った指導が大半であり、センターが言うような指導がおろそかにされてきた。その弊害が見事に今回あらわれているということだ。
 毎日新聞の記事では、

 テスト結果とアンケートとの関連を見ると、「読書で漢字を読む力がつく」「文章を書く時、習った漢字を進んで使う」と答えた児童や生徒ほど、漢字の読み書きを正答する傾向が強く、文章を書く学習を「日常生活で必要」と答えた児童生徒ほど長文記述の成績が良かった。

ということを指摘している。つまりは、漢字ドリルなどとともに、文章の中で意図的に漢字を読み書きするような指導をしていくことが重要であり、何事も偏らないということが大事だということ。そういうことは、実は以前から言われていたことだし、普通に行われてきたこと。それが、なぜできなかったのかそこが問題。
 次に、毎日新聞の記事では、

 算数・数学では、「足す」「引く」「掛ける」「割る」の四則計算が苦手な実態も浮かんだ。「3+2×4」の正解は「11」。しかし、足し算の前に掛け算をする決まりへの理解不足から、正答率は小4=73.6%▽小5=66.0%▽小6=58.1%と下がり、中1でようやく81.1%と上昇。センターは「継続的な指導が十分行われていないのが原因」とみている。

と指摘。産経新聞の記事では、

 算数・数学の場合、「数学的に考える力」で、グラフ化をはじめとして日常事象の考察に算数・数学を生かす力に問題があった。また、論理的に反証する力や数量関係の法則を発見する力、発展的に考える力が不十分だった。「計算に関する力」では、四則計算で、掛け算や割り算を足し算や引き算より優先させる決まりについての理解不足が目立った。

と指摘している。
 産経新聞の記事で、学力テストの主な課題と指導改善策として

算数・数学

★グラフ化など日常事象の考察に算数・数学を生かす力
 →日常生活と結びつけた指導の充実

★数量の関係に法則を見つけたり、面積の求め方を発展的に考えること
 →解決の方法や考え方に着目した指導

★演繹(えんえき)的な考え方を説明・記述する力
 →論理的に筋道立てて説明させる指導

★四則計算における乗除先行の理解が不十分
 →整数段階から演算を丁寧に扱い計算の意味を理解

というように示されている。これらはどれも基礎・基本の充実のためにということで盛んに行われてきた(マスコミなどもそういう指導を盛んに取りあげて推進した。)「算数ドリル」では決して身につかないものだ。そういう指導が明らかに不足していたということ。これらは、基礎・基本がなければできないものではなく、基礎・基本を身に付けながらできるもの。また、こういう指導を通して基礎・基本は充実するものだ。
 一般的には「基礎・基本」から「応用」という道筋で学びを捉えている。しかし、今回の調査を見たとき、その道筋だけでは学力が文科省の言うような「確かなもの」にはならないということが明確になっている。いつまでも「基礎・基本」だけにとらわれて形式的な学びに終始しているのではなく、「応用」の学びを通して「基礎・基本」の充実を図るような指導を充実させるべきだ。
 毎日新聞の記事で芳沢光雄・東京理科大教授(数学教育)が次のようなことを述べている。

 今の教育は各教科が縦割りになっていて、ごく狭い世界だけを教えている。ほかの教科や生活とのかかわりが少なく、学習意欲の低下にもつながっている。各教科の垣根を越えた教育が必要だ。

 学力テストの結果をきちんと子どもや保護者、教員や社会にフィードバックし、適切な対策を講じられるようなシステムを早く構築して欲しい。そういうものが構築されないまま全国学力テストを実施しても何の効果もない。

(追記)

[解説]3万7000人学力調査に見る課題

日本の子供の学力低下

小・中学生学力調査 「現場の実感と同じ」

小4〜中3の全国学力調査 日常使わぬ漢字不得意

論理的な考察「苦手」 小4〜中3国・数の学力調査

(蛇足)
 私が言えるようなことではないが。産経新聞の記事で、

 小学生には「テレビの見方」について、中学生には「言葉の使い方」についてそれぞれ長文の意見文を書かせ、記述量や論旨構成、きちんとした意見表明ができているかを見た。
 「テレビを近くで見てはいけない」と書き出したものの、視力が落ちる弊害の話題に触れた後、視力を良くする方策に論旨がぶれたり、自分の生活経験だけを並べただけで意見が盛り込まれていなかったりする文章が多かった。

 中学生の作文では、設問が「言葉の使い方について」書くよう求めているのに、「言葉は大切だ」という論旨に終始し、課題への理解不足が散見した。現象の分析だけで自分の意見がなかったり、根拠なく唐突に結論を導き、「正しい言葉遣いをしたい」と結んだりする文章も多かった。

と指摘されている。教育基本法改正に関する国会での議論では、ここにあるような子どもの文章と同じくらい、論理の飛躍した、根拠が十分ではない「支離滅裂」な主張が多かったのではないか。国会議員の皆さんへのフォローはどうする?以上蛇足でした。