教育基本法提案理由

 1947年3月19日帝国議会貴族院本会議議事録より。教育基本法案の提案理由と内容概略の説明

○國務大臣(高橋誠一郎君) 今日上程に相成りました教育基本法案に付きまして、其の提案の理由竝に内容の概略を御説明申上げたいと存じます、民主的で平和的な國家再建の基礎を確立致しまするが爲に、曩に憲法の劃期的な改正が行はれました、之に依りまして先づ民主主義、平和主義の政治的、法律的な基礎が作られたのであります、併しながら此の基礎の上に立つて眞に民主的、文化的な國家の建設を完全致しますると共に、世界平和に寄與すること、即ち立派な内容を充實させますることは、國民の今後の不斷の努力に俟たなければならぬことは勿論でございます、さうして此のことは一に懸つて教育の力にあると申しても敢て過言ではないと存ずるのであります、斯くの如き目的の達成の爲には、此の際教育の根本的刷新が斷行せられますると共に、其の普及徹底を期することが何よりも肝要でございます、斯かる教育刷新の第一前提と致しまして、新しい教育の根本理念を確立する必要があると存ずるのであります、それは新しい時代に即應する教育の目的方針を明示し、教育者竝に國民一般の指針たらしめなければならないと信ずるからであります、次に之を定めるに當りましては、是迄のやうに詔勅、勅令などの形を取りまして、謂はば上から與へられたものとしてではなく、國民の盛上りまする總意に依りまして、謂はば國民自らのものとして定むべきものでありまして、國民の代表者を以て構成せられて居りまする議會に於きまして、討議確定致しまするが爲に法律を以て致すことが新憲法の精神に適ふものと致しまして、必要且適當であると存じた次第でございます、更に新憲法に定められて居りまする教育に關係ある諸條文の精神を一層敷衍具體化致しまして、教育上の諸原則を明示致す必要を認めたのであります、扨、是等の教育上の原則竝に先に申述べました教育の根本理念は、單に學校教育のみならず、廣く家庭を含めました社會教育にも通ずべきものでありまして、是等の根本理念竝に原則は、個々の教育法令に別々に掲げることなく、基本的な單一の法律に規定致しまして、其の他の教育法令は總て此の法令に掲げまする目的竝に原則に則つて制定せらるべきものとすることが適當であると考へるのであります、此の法律を之が爲に教育基本法と稱したのであります、以上申述べました理由に基きまして、此の法案を作成致したのでありまするが、此の法案は教育の理念を宣言する意味で教育宣言である、或は教育大憲章であるとも見られませうし、又今後制定せらるべき各種の教育上の諸法令の準則を規定すると云ふ意味に於きまして、實質的には教育に關する根本法たる性格を持つものであると申上げ得るかと存じます、從つて本法案には普通の法律には寧ろ異例でありまする所の、前文を附した次第でございます、次に此の法案の内容を御説明申上げますと云ふと、先づ此の法律制定の由來趣旨を明らかに致しまするが爲に、只今一言申上げましたやうな前文が附せられて居るのであります、次に本文に入りましては、第一條に新時代に即應すべき教育の理念を明かに致しまするが爲に、教育の目的を掲げました、次に第二條に於きましては此のやうな教育の目的を如何に達成すべきか、其の方針を明示致しました、第三條教育の機會均等の條下に於きましては、新憲法第十四條第一項、同じく第二十六條第一項の精神を具體化致しました、第四條義務教育に於きましては、新憲法第二十六條第二項の義務教育に關する規定を一層はつきりと規定したのであります、更に第五條男女の共學に於きましては、新憲法第十四條第一項の精神を敷衍致しまして、男女共學を説きました、第六條學校教育に於きましては、學校の性格、教員の身分に付て規定し、第七條に於きまして、社會教育の原則を謳つたのでございます、第八條政治教育に於きましては、民主主義社會に於ける政治的教養の重要性竝に學校に於ける政治教育の限界を示しました、第九條宗教教育に於きましては、新憲法第二十條の信教の自由の規定が教育上如何に適用せらるべきであるかを明示したのであります、第十條教育行政の條下に於きましては、教育行政の任務の本質と、其の限界を明らかに致した次第でございます、以上本法案制定の理由、性格竝に内容を御説明を申上げたのでございまするが、此の法案は教育の根本的刷新に付て議すべく、昨年九月内閣に設置せられました教育刷新委員會に於きまして、約半歳に亙つて愼重審議を重ねられました綱要を基と致しまして、政府に於て立案作成致したものであります、尚本案は樞密院の御諮詢を經たものでございます、何卒愼重御審議の上御協贊あらむことをお願ひ申上げる次第でございます

 2006年内閣提出教育基本法案の趣旨説明と提案理由説明

趣旨説明

 教育基本法案について、その趣旨を御説明申し上げます。
 現行の教育基本法については、昭和二十二年の制定以来、半世紀以上が経過しております。この間、科学技術の進歩、情報化、国際化、少子高齢化など、我が国の教育をめぐる状況は大きく変化するとともに、様々な課題が生じており、教育の根本にさかのぼった改革が求められております。
 この法律案は、このような状況にかんがみ、国民一人一人が豊かな人生を実現し、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の平和と発展に貢献できるよう、教育基本法の全部を改正し、教育の目的及び理念並びに教育の実施に関する基本を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、教育振興基本計画について定める等、時代の要請にこたえ、我が国の未来を切り拓く教育の基本の確立を図るものであります。
 次に、この法律案の内容の概要について御説明申し上げます。
 第一に、この法律においては、特に前文を設け、法制定の趣旨を明らかにしております。
 第二に、教育の目的及び目標について、現行法にも規定されている「人格の完成」等に加え、「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い」、「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」こと、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」ことなど、現在及び将来を展望して重要と考えられるものを新たに規定しております。また、教育に関する基本的な理念として、生涯学習社会の実現と教育の機会均等を規定しております。
 第三に、教育の実施に関する基本について定めることとし、現行法にも規定されている義務教育、学校教育及び社会教育等に加え、大学、私立学校、家庭教育、幼児期の教育並びに学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力について新たに規定しております。
 第四に、教育行政における国と地方公共団体の役割分担、教育振興基本計画の策定等について規定しております。
 以上が、この法律案の趣旨でございます。

提案理由説明

 このたび、政府から提出いたしました教育基本法案について、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
 現行の教育基本法については、昭和二十二年の制定以来、半世紀以上が経過しております。この間、科学技術の進歩、情報化、国際化、少子高齢化など、我が国の教育をめぐる状況は大きく変化するとともに、様々な課題が生じており、教育の根本にさかのぼった改革が求められております。
 この法律案は、このような状況にかんがみ、国民一人一人が豊かな人生を実現し、我が国が一層の発展を遂げ、国際社会の平和と発展に貢献できるよう、教育基本法の全部を改正し、教育の目的及び理念並びに教育の実施に関する基本を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務を明らかにし、教育振興基本計画について定める等、時代の要請にこたえ、我が国の未来を切り拓く教育の基本の確立を図るものであります。
 次に、この法律案の内容の概要について御説明申し上げます。
 第一に、この法律においては、特に前文を設け、法制定の趣旨を明らかにしております。
 第二に、教育の目的及び目標について、現行法にも規定されている「人格の完成」等に加え、「個人の価値を尊重して、その能力を伸ばし、創造性を培い」、「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養う」こと、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」ことなど、現在及び将来を展望して重要と考えられるものを新たに規定しております。また、教育に関する基本的な理念として、生涯学習社会の実現と教育の機会均等を規定しております。
 第三に、教育の実施に関する基本について定めることとし、現行法にも規定されている義務教育、学校教育及び社会教育等に加え、大学、私立学校、家庭教育、幼児期の教育並びに学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力について新たに規定しております。
 第四に、教育行政における国と地方公共団体の役割分担、教育振興基本計画の策定等について規定しております。
 以上が、この法律案の提案理由及びその内容の概要でございます。
 何とぞ、十分御審議の上、速やかに御賛成くださいますようお願いいたします。