この問題の重要性をもっとアピールしよう

教育基本法改正 インタビュー(下)

 小熊英二氏は次のように述べている。

■介入

 三つめに、自民党は「万年与党ぼけ」ではないかと感じました。

 今の教育基本法第一〇条は「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って」と書いて、教育への政権の介入を禁じている。これは戦前の軍国主義教育への反省もありますが、制定時の状況では、共産党社会党が政権を取って教育を左右したら大変だという危機感もあったはずです。

 基本法を発案した文相の田中耕太郎、教育刷新委員会(今の中央教育審議会)の初代委員長安倍能成、二代目の南原繁、首相の吉田茂らは、みな反共自由主義者でした。実際に一九四七年三月の教育基本法公布の直後、四月の選挙で社会党が勝って政権を取った。基本法を作った当事者たちは、間に合ってよかったと思ったのではないか。

 ところが与党改正案では、この一〇条に当たる部分を「不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより」として、政権の介入ができるようにした。これは自民党が教育を意のままにする道を開きかねないと批判されていますが、そればかりではない。もしも今後、民主党共産党連立政権ができたり、極右政党がかつての日本新党のようにいきなり台頭して政権を取ったら、自民党公明党は「あんな改正をしたのは自殺行為だった」と後悔することになるかもしれません。

 しかし与党改正案にはそういう可能性を考えた形跡が全然ない。永遠に自分たちが政権党であることを前提にしている。緊張感ゼロの「万年与党ぼけ」だと思います。

 小熊氏が指摘しているように教育基本法第十条は、教育と政治との距離を保つための重要な条項だ。しかし、先日の中曽根氏や与党の議員は、教育と政治との距離が全くなくなっても問題はないと考えている。
 彼らは、教育が自分たちの主張や嗜好に合わないからそれを何とかしたいと考える。そのためには政治が教育をいくらでも動かせるようにする方が都合が良いと考えている。しかし、それは小熊氏が指摘するように自殺行為に等しい。小熊氏の言うように、そういうところまで議論した形跡は全くない。
 やはり、教育基本法第十条の問題をもっとアピールしよう。愛国心の問題と同じくらい重要だと。目前のことしか考えていない議員に重要な法案の審議は任せられない。