教員の意欲を引き出すものは

公立校の教員給与、見直し 時間外の導入、能力型も検討

時間外手当の導入や、年功主義をやめて能力・業績を本格的に給与に反映させることなどを検討する。政府の歳出削減に対応すると同時に、教員評価制度と組み合わせメリハリのある処遇で教員の意欲を引き出すのがねらい。

 よく、「メリハリのある処遇」で教員の意欲を引き出すと言われるが、それは本当だろうか。労働政策研究・研修機構 「ビジネス・レーバー・トレンド 成果主義がもたらしたもの―「失われた10年」の賃金制度改革」 2005年3月号(以下、各氏の主張は同誌からの引用)で大橋勇雄氏は次のように述べている。

 もし労働者の成果が確実に把握できるならば、出来高払いなどの業績に直接連動した賃金契約が勤労意欲を高める上で合理的である。
 しかし、成果には必ずリスクが付き纏う。たとえば、セールスマンの売上は毎期一定ではないだろう。そのために、完全な出来高払いはセールスマンの給与を大きく変動させる。さらに将来の売り上げを伸ばすための努力をしたとしても、その成果が実現するまでの間、低い給与に甘んじなければならない。こうした問題は、労働者の成果を正確に把握できない場合、さらに深刻になる。というのは、成果の観測誤差までが給与の決定に混入し、リスクを拡大するからである。

 教育では、成果が正確に把握できない面が多く、成果が出るまでに時間がかかるものも多い。その意味で、能力給の導入はリスクを拡大する可能性が高い。さらに、守島基博氏は次のように述べている。

 人は、自分の能力を活かせる仕事が与えられたときに最も意欲が涌く。能力の活かせる仕事ならば、それは自分にとって面白く、それ自体がモチベーションになるだけでなく、成果を出せる確率も高まって、高い報酬への可能性が見えてくる。当然のことだが、モチベーションが高いか、低いかは、成果をだすための大きな要素であり、成果主義がモチベーションを下げてしまっては、元も子もない。

八代充史氏は次のように述べている。

 「成果中心主義」では、「能力」と「成果」は全く別物と考えられている(もっと直截に言えば、「能力」は「年功」の温床と見なされる)。しかし「能力」が高い者は現在「成果」を上げていなくても将来「成果」を上げる可能性がある。従って企業が「成果」を高めるためには、まず「能力」開発によって従業員の能力を高めることが必要である。言わば能力開発は、「長期的」観点から成果を向上させることに他ならないのである。

 教員の意欲を引き出し、成果を高めるには、自分の能力を活かせる仕事をし、「能力」開発するためのシステムが必要だ。しかし、そのようなシステムがきちんと整備されているとは言い難い。そういう状況で、成果主義が導入されても成果を上げるものにはならない。
 教員を長期的な視点から育成するという視点が失われ、短期間で育成するために、技術やノウハウに過度に依存している。短期間で成果を上げることが求められ、成果を上げるまでに長期間かかるものや、成果が明確でないものは敬遠される傾向が強まっている。それは、教員にとってマイナスなだけではなく、子どもにとって大きなマイナスとなる。