まかれた種

 時事通信社の「内外教育」 2006年05月16日 第5651号 耳塚寛明氏のコラムより。耳塚氏は、

 全国的な学力調査の実施方法が発表された。2007年4月24日、小学校6年と中学校3年の全児童・生徒を対象に国語と算数・数学の学力が測られる。八方美人政策と言ってよい。

(中略)

 さまざまな力と思惑が学力調査の周辺にうごめく。無視すれば文部行政が八方ふさがりに陥る。教育界内外の八方から押し寄せる要請を少しずつ入れた結果、一見何のための調査なのか分からない学力調査システムが出来上がった。

と指摘している。そして、耳塚氏は

 だがこの学力調査は、新しい教育政策の時代の幕開けでもある。日本の教育行政が長く欠いてきた、教育成果の測定と診断を実現する仕組みの種がまかれた。学力は教育成果のほんの一部にすぎないが、知識・技能のみならず、それを活用する力や課題解決力も調査では問われる。学力観の転換が期待できる。同時に悉皆調査によって、水準に達しない学校の存在が全国的な規模で浮かび上がる。教育の質を向上させるために、国は人・物・金やノウハウなどの教育資源をどこに投下しなければならないのか。それがあらわになる。
 種はまだ種にすぎず、しかもサラブレッドとは言い難い。ともあれ種はまかれた。育てたい。

と述べている。確かに「学力調査は、新しい教育政策の時代の幕開け」であり、「教育成果の測定と診断を実現する仕組み」は根付かせたい。
 しかし、耳塚氏が指摘するように「八方美人」の「一見何のための調査なのか分からない学力調査システム」が出来上がったのは、議論が十分ではないからだ。「学力低下」が煽られその中で現状認識も十分に行われずに、ムードが先行し、学力調査の実施が決定され、議論はそのための理由の強化のために行われた。来年の実施に向けてどれくらい学校現場や保護者などの理解が深まっているだろうか。理解も深まらないまま実施されれば混乱を招く可能性は大きい。急ぐ必要はない。もう少し時間をかけて議論をして欲しい。