これでは格差は解消できない

塾に通えぬ小中学生に“公立塾”

 経済的理由などで塾に通えない子どもを支援するため、文部科学省は来年度から、退職した教員OBによる学習指導を全国でスタートさせる方針を固めた。

 通塾する子どもとの学力格差を解消するのが狙いで、放課後や土・日曜に国語や算数・数学などの補習授業を行う。

 このようなものが開設されれば学力の格差も経済的負担も解消されるだろう。しかし、それは一時的なもので、一部だけに限られる。
 定員が限られた学歴獲得競争でその定員に入るには、他の子どもよりも順位が上でなければならない。そのために子どもを塾に通わせたり私立の学校へ通わせたりしている。公立の学校が荒廃しているから、塾や私立に通う子が増えていると考えられているが、公立で塾や私立の学校が行っていることをやっていてもその数は減らない。他の子どもよりも学力順位で上になろうとすれば、さらに時間と費用とを注ぎ込もうとするからだ。
 また、この取り組みが安い費用で塾と同程度の成果を上げられるようになれば、これまで多額の費用を注ぎ込んできた子どもと親の不公平感と不満がでる可能性がある。それを解消しようと思えば、経済状況に関係なくすべての子どもにこの取り組みは開放されるだろう。そうなれば、塾などに注ぎ込んでいた費用は別の形で子どもに注ぎ込まれることになるだろう。また、そこで格差が生じることになる。
 昔は塾や私立に行かなくてもというようなことが言われるが、昔はどのような学歴であっても仕事は見つけることができたし、それなりの生活ができていた。しかし、今はそういう状況にない。学歴が将来の経済状況にシビアに反映されるようになったと考えられている。そして、その不安は常に煽られている。そういう状況の変化が以前とは異なる形の学歴獲得競争を生み出している。
 現在の学歴獲得競争は以前よりも多様性を認めなくなっている。そのために、いったんそのシステムから外れると将来の選択肢は大きく制限されることになる。教育への不信感と過度の依存というアンビバレントな状況。そして、学力獲得競争は親の力によって決まるとか経済状況によって決まるなどと喧伝されることでさらに熾烈になっていく。
 公立の学校や公立の塾などの取り組みだけでは決して問題は解決できない。問題解決にまず必要なことは、親の力がとか、経済状況がと言って社会的不安を煽らないようにすること。現在の不安感は個人ではどうしても解決できない所まで個人の責任にしている。冷静に状況を見ることができなければ「公立の塾開設」「学力格差の解消」と短絡的に結びつけて捉えてしまう。公立の塾開設は手段の一つであって特効薬ではない。そこを指摘しておきたい。