同僚教員評価制度について

教員人事評価と職能開発―日本と諸外国の研究

教員人事評価と職能開発―日本と諸外国の研究

 古賀一博「アメリカにおける教員の人事評価と職能開発」から同僚教員評価制度を紹介したい。

 同僚教員評価とは

教員の職務遂行能力を開発・支援したり、あるいは支援を受けた後も適切に業務遂行しない教員の職務を終了させたりするための、教員の職務遂行能力の改善に責任を有す教員や組合によってなされる様々な手続き

と定義されるという。その具体的な目標は、

  1. 初年度教員の契約を更新するかしないかを決定すること
  2. 様々な理由で適切な職務遂行を行っていないテニュア教員に関する決定を主導すること
  3. 当該教員の利益・不利益とは関係なく、教員の職務遂行能力の改善・向上のために、当該教員へ援助を提供すること

とされている。
 ここで注目したいのは、この制度の背景についてだ。

NEA議長のRobert F. Chaseは、1997年と1998年のNational Press Clubにおける声明で、「教育の質的改善が目下NEAの最大優先事項であり、そのために「新組合」が学校の管理運営や生徒の成績向上に対する執行責任を協同して引き受けること、さらには「新組合」はそのリスクがいかなるものか明確でなくとも、それを引き受け、そして悪い結果となった場合、その結果責任を取る」ことを明示している。そして、この脈略に沿って、「不適格な教員の加入あるいは保有を最小限度に押さえ込む」ための具体的方途として、現下注目されている「同僚教員評価」を提案しているのである。

NEAは1997年度代表者会議で「同僚支援・評価プログラム」というD-6決議を採択している。

「同僚支援・評価プログラム」

 全米教育協会は、教職における高い基準とその職業実践における絶えざる改善が教職の根本概念であると確信している。特定の環境の下で、同僚支援あるいは同僚支援と同僚評価がかかる目標を達成するための適切な装置であると結論づけることのできる地方支部もある。
 かかるプログラムの主たる目的は、「援助」(職務実践の改善、有能な教員の確保、生徒の成功を促進する専門的知識技術の構築)の提供であるべきである。地方支部は、その選択において、同プログラムに(業務遂行評価を含む)「評価」要素を含むことも可能であろう。もし地方支部がいずれかの立場を取る場合、同プログラムは以下のようにあるべきである。

a.団体交渉を通してあるいは団体交渉法のない州では地方支部と学区の協定(同意)を通して開発されること。

b.地方支部によって任命された代表が同じ数あるいは過半数を占める委員会によって管理されること。

c.学区が保有、あるいは契約の非更改、満了に関する最終決定を行うが、合同管理機関によって示された勧告は機械的に受け入れられ、学区によって行為されることを認めること。

d.同僚から高い技能を保有する実践者であるとみなされている教員のみが相談教員として選定されるとともに、相談教員の専門領域は評価を受ける教員のそれと同じか近接領域であること、さらには相談教員は評価を受ける教員の同意をもって同プログラムの管理機関によって選ばれること、を確保すること。

e.教職界の多様な人々を反映する相談教員を確保すること。

f.相談教員は、適切な報酬を受け取るとともに、その責任を遂行するための適切な時間を提供されること。

g.相談教員は、徹底したそして最新の指導技術、学区の指導と資源、最新の教授方法を受け取ること。

h.不当な調査(referral)を防ぐための保護策と同様に、教員の調査(referral)に関するガイドラインを設定すること。

i.同プログラムの執行によって必要となる書類、物品、通信の認可使用に関する明確な規則を設定し、全ての相談教員、評価を受ける教員に提供すること。

j.各被評価者の最新の評価に基づく徹底した証拠資料を求めること。

k.評価を受ける教員への教職外への転出相談や契約の非更改や満了の勧告を行う前に、評価を受ける教員が必要とされる熟達基準に到達できるよう援助するために、適切な期間、正確で徹底した援助が提供されるよう求めること。

l.適正手続きと公正な代表手続きに関する義務を確保すること。

m.評価を受ける教員、相談教員、管理機関で業務する教員が、同プログラムへ参加することで、NEAのメンバーシップ、交渉団体中の地位を喪失しないよう保証すること。

 同僚教員評価は組合が持っていた体質を変えること。教員の自立を強化することにつながると考えられる。この制度は学ぶべき点が多い。特に教員が自ら責任を持つこと。教員の職能開発が教育委員会などから一方的に提供されるプログラムではないこと。教員の評価が管理を目的として行われていないことを挙げておきたい。
 先日取り上げた社説のような考え方が日本の教員評価では主流になっている。教員の職能開発を第一の課題と設定するならその考え方は間違っている。教員の評価と職能開発についてはもっと議論すべきであり、それは、教員側でも行われるべきだ。