事実と真実しか書かない論文の話(作り話)

 20xx年,ある研究者が発表した論文が注目を集めていた。「事実と真実しか書かない論文」というものだ。彼は,数十年の研究の末にこの論文を書き上げたのだという。ある研究者は「このことになぜ今まで気がつかなかったのだろうか」と後悔しているという。
 彼の論文が注目された理由は,「事実と真実しか書かない論文」という題だけではなく,その論文の根拠にある。彼が根拠としたのは「教科書」だからだ。
 この国では「教科書に書いてある」ということが,他のどの根拠よりも信用度が高いということが常識になっている。彼は「根拠となるのは我が国の教科書しか駄目だ」という。他国の教科書にはデマが含まれているからだ。それも我が国では常識になっている。しかし,一部からは批判されていた。
 ところが,今日発表された彼の最新の論文には批判する人もいないだろう。今回彼が根拠としたのは教科書の記述の基になる「学習指導要領」だからだ。学習指導要領にはデマはないというのが常識化している我が国では,学習指導要領の記述は,あらゆる学問の研究でも重視される。学習指導要領に書かれていないことや,それと異なる見解はデマであるということが常識になっているからだ。
 学習指導要領の記述の大きな変更はここ数十年行われていない。子どもには学習指導要領や教科書で記述されたことしか教えないという数十年にわたる教育の成果によるものだ。これからもそうした教育は行われなければならない。
 彼の書いた「事実と真実しか書かない論文」は,この国の教育の成果である。それを批判するのは我が国の非常識である。

 といった作り話を考えてみた。