牧人=司祭型権力

ISBN:4480790276:detail
「政治の分析哲学」M・フーコー渡辺守章より引用

 現代の危機と呼ばれるものの特異性をなすのは、現代人が、このような〈牧人=司祭型権力〉によって生ずる〈個人〉の問題に、極めて鋭敏に反応するに至っていることにほかならない。
 これらの運動において問題になっているのは、〈隷属状態〉(assujettissement)から脱却すること、すなわち〈牧人=司祭型権力〉が〈主観性〉(subjectivite)という形で、個人を彼自身へと強制的に結びつけたあのメカニズムから脱却することなのだ。人間の精神的変革が国家の変革の条件なのか結果なのかという古くからの議論についても、そもそも、個人が〈主観性〉〔自己についての自己の意識〕という形で自己と保つ関係は、実は権力の関係ではないのかと問うてみる必要がある。つまりそれは精神=道徳の関係ではなく、政治の関係なのであって、すでに触れたような運動l健康にせよ、狂気にせよ、環境にせよlによって、これらの日常的な、しばしば取るに足らぬ〈劇の仕組み〉のなかで問題にされているのは、個人というものを政治的に変えることにほかならない。それは国家の変革を待ってなされる類のことではないのだ。