政争の具と化す教育基本法改正の問題

教育基本法改正案:与党が強行採決?国会は来週ヤマ場に

 「(審議を)すべてストップさせることも含め、野党はできる限り共闘しなければならない」。民主党鳩山由紀夫幹事長は10日の記者会見でこう述べ、週明けの審議拒否をちらつかせた。

 同党が描くのは、(1)麻生太郎外相の罷免要求(回答期限13日)に対する安倍晋三首相の拒否回答を理由に審議拒否(2)タウンミーティングのやらせ質問やいじめ自殺、履修不足などの問題で審議不足を主張し、同法改正案の採決を拒否−−などにより、政府・与党批判を盛り上げる展開。鳩山氏の発言には、審議拒否に否定的な共産党をけん制する狙いもある。

 ただ、民主党は7日までは政府案反対を掲げつつ採決は容認する姿勢だった。これに不満を持った社民党福島瑞穂党首らが小沢氏に方針転換を働きかけた。旧社会党系の輿石東民主党参院会長も同日の党役員会で「今国会での政府案成立阻止が党方針ではないのか」とけん制。これを受け小沢氏は鳩山氏らに「参院の言うことをよく聞いてやってくれ」と指示した。

 小沢氏が「社民−旧社会ライン」の動きに呼応したのは、野党共闘を組む沖縄知事選が接戦になっているとの危機感からとみられる。やらせ質問や未履修問題の拡大で審議拒否などの強硬路線も世論の理解を得られるとの計算も働く。

 対する与党は知事選前に採決を強行するか、厳しい判断を迫られる。与党側が民主党の要求する地方公聴会や中央公聴会を受け入れたのは、民主党が来週の衆院通過を容認するとの見通しからだ。与党には「強行採決を避けるために要求をほとんどのんできたのに」(公明党幹部)との反発も広がっている。

 自民党二階俊博国対委員長は10日、那覇市での講演で「いつまでも慎重審議で引きずられていては政治の生産性も上がらない」と強行採決の可能性を示唆した。

 教育基本法だけでなく、教育の問題は単なる政争の具と化している。教育基本法改正反対という声は、いつのまにかその向きを変えて自分たちの方へと向かって戻ってくる。それは相手に届いて呼応する声ではなく、壁にぶつかって反響する声だ。
 教育基本法の改正も改正阻止も国会の審議で決まる。そういうときに「政治」の力学が働くことは仕方ないことかもしれない。教育の問題が政争の具と化すことも仕方ないということがあるかもしれない。しかし、それでは、政治的に取り上げやすい問題だけが議論され、その他のものがきちんと議論されないまま置き去りにされてしまう。
 例えば、

【正論】高崎経済大学教授・八木秀次 教基法は教職員の法令遵守が眼目

で、八木氏は、

 あまりはっきり言う人はいないが、今回の教育基本法改正の眼目の一つは、この左派系教職員組合の影響力を排除し、教育の主導権を国民の手に取り戻すことにある。冷戦が終焉(しゅうえん)して15年以上も経つのに、我が国の教育界には依然として「東側」、いや38度線の北側に位置する勢力が大きな影響力を持ち続けている。そして税金を使って、国家の転覆を考えるような子供や日本に帰属意識を持たない子供を大量生産している。それを正常化するのが教育基本法改正の目的の一つなのだ。

と述べている。これは、教育基本法の改正問題を「左派系教職員組合の影響力を排除し、教育の主導権を国民の手に取り戻す」という大義名分を掲げ、教育基本法改正の問題を、左派系教員の排除の問題へと矮小化し、それ以外の問題は瑣末なことだとし、改正の影響は大きくないという錯覚を引き起こさせる。また、改正反対派は日教組と同じか関係の深いものであると喧伝することで、民主党内の日教組と同一視されたくない議員や一般の人たちは、自分たちはそういうのとは別だとして、反対し続けることを躊躇している。そうして、改正反対で共闘できるはずの人たちが分断され、改正反対の力は分散し、やがて雲散霧消する。
 教育問題の議論は、観念論だけになり、問題は掘り下げられず棚上げされたり、先送りされる。藤田英典氏は、先日の衆議院の特別委員会の参考人質疑で「いじめ、校内暴力、不登校、学級崩壊、少年犯罪も、1980年代から一貫して改革の理由として言われ続けながら、問題は一向に解決していない」ということを指摘した。それは、教育の現実から目をそらした結果だ。今回もおそらく一つも問題は解決することなく、教育基本法は改正され、一部の人間だけがその利益を享受するだろう。
 教育の問題を政争の具と化さないために、政治家やマスコミにとって「つまらないこと」を取りあげて追求していくことだ。なぜこれが問題なのか。その根拠は何かと。そして、「規範意識の欠落」といった方向へと持ち込ませないことだ。そして常に、現実に依拠して問題を議論することだ。