祭りの後に残るものは

【主張】履修逃れ 公教育は受験だけでない

 未履修科目が発覚した学校や教育委員会などの言い訳には、ただただ呆れるばかり。白々しい言い訳をしても責任は逃れられないのに。
 それよりもマスコミの反応にはもっと呆れてしまう。マスコミは一斉に受験偏重を批判している。しかし、マスコミはその受験偏重に大きく貢献してきたのではないか。そんなことはすっかり忘れたような顔をして、学校などを「浅はかだ」と批判する。一体どちらが浅はかなのか。
 今回の問題についてKOYASUさんが次のように指摘されている。その指摘の通りだと思う。

 1)の受験教育偏重はこの偽造を行っている学校が進学校や進学をめざすクラスで行われていることから、その動機は明瞭だ。進学実績で生き残ろうというわけだ。八王子東が端的に示すように、新自由主義が教育に導入された結果だ。これに突き動かされて教育委員会も、学校管理者も教師も生徒も動いた。だから、この新自由主義的な競争主義を廃棄しなければ、似た事柄は発生し続けるだろう。
 だが、本源的には、先日書いたように、高校教育の中身をどう考えるのかという問題なのである。受験による実績を第一義としてしまう思想、そこには後期中等教育は何を課題とするかという眼差しがない。受験という眼差ししかない。市民としての高校生を育てるという発想が全くない。これは、学校を主導している出世コースに乗った教師とそれに疑問を持たない生徒だけのことではない。
市民に必要な教養を育てることにそれぞれどのような科目が必要か、その中身は何であるべきかという眼差しが最も重要なのである。
 そうした眼差しなしに、世界史をやめて日本史を必修にすればよいとか、教育委員会の管理強化で対応すればよいという方向は、事柄の本質を見失う問題である。
 教育への新自由主義的な競争主義の廃棄と高校生の教養を育てるカリと内容構成が基本問題なのだ。

追記

 今回の問題のきっかけが現行の学習指導要領導入だったということが一部で主張されているが、それはデタラメだ。今回の問題を「ゆとり教育」のせいだと言い、そこに責任を負わせても根本的な問題解決にはならない。
 もしかしたら、私達は、子どもを大学に合格させてくれと頼んだり、それを期待はしていたが、法律や学習指導要領に反してまでやってくれとは言っていないというような声が出てくるかもしれない。しかし、そんな無責任な発言や考え方は詭弁にすぎない。

 現行の学習指導要領では、

第3款 各教科・科目の履修等

1 必履修教科・科目

 すべての生徒に履修させる各教科・科目(以下「必履修教科・科目」という。)は次のとおりとし,その単位数は,第2款の2に標準単位数として示された単位数を下らないものとする。ただし,生徒の実態及び専門教育を主とする学科の特色等を考慮し,特に必要がある場合には,標準単位数が2単位である必履修教科・科目を除き,その単位数の一部を減じることができる。

(1) 国語のうち「国語表現Ⅰ」及び「国語総合」のうちから1科目

(2) 地理歴史のうち「世界史A」及び「世界史B」のうちから1科目並びに「日本史A」,「日本史B」,「地理A」及び「地理B」のうちから1科目

(3) 公民のうち「現代社会」又は「倫理」・「政治・経済」

(4) 数学のうち「数学基礎」及び「数学Ⅰ」のうちから1科目

(5) 理科のうち「理科基礎」,「理科総合A」,「理科総合B」,「物理Ⅰ」,「化学Ⅰ」,「生物Ⅰ」及び「地学Ⅰ」のうちから2科目(「理科基礎」,「理 科総合A」及び「理科総合B」のうちから1科目以上を含むものとする。)

(6) 保健体育のうち「体育」及び「保健」

(7) 芸術のうち「音楽Ⅰ」,「美術Ⅰ」,「工芸Ⅰ」及び「書道Ⅰ」のうちから1科目

(8) 外国語のうち「オーラル・コミュニケーションⅠ」及び「英語Ⅰ」のうちから1科目(英語以外の外国語を履修する場合は,学校設定科目として設ける1科目とし,その単位数は2単位を下らないものとする。)

(9) 家庭のうち「家庭基礎」,「家庭総合」及び「生活技術」のうちから1科目

(10) 情報のうち「情報A」,「情報B」及び「情報C」のうちから1科目

となっていて、平成元年告示の学習指導要領では、

第3款 各教科・科目の履修

1 次の各教科・科目は、すべての生徒に履修させるものとし、その単位数は、第2款の1に標準単位数として示された単位数を下らないものとする。ただし、生徒の実態及び専門教育を主とする学科の特色等を考慮し、特に必要がある場合には、その単位数の一部を減じることができる。

(1) 国語のうち「国語Ⅰ」

(2) 地理歴史のうち「世界史A」及び「世界史B」のうちから1科目並びに「日本史A」、「日本史B」、「地理A」及び「地理B」のうちから1科目

(3) 公民のうち「現代社会」又は「倫理」・「政治・経済」

(4) 数学のうち「数学Ⅰ」

(5) 理科のうち「総合理科」、「物理ⅠA」又は「物理ⅠB」、「化学ⅠA」又は「化学ⅠB」、「生物ⅠA」又は「生物ⅠB」及び「地学ⅠA」又は「地学ⅠB」の5区分から2区分にわたって2科目

(6) 保健体育のうち「体育」及び「保健」

(7) 芸術のうち「音楽Ⅰ」、「美術Ⅰ」、「工芸Ⅰ」及び「書道Ⅰ」のうちから1科目

(8) 家庭のうち「家庭一般」、「生活技術」及び「生活一般」のうちから1科目

2 普通科における各教科・科目の履修については、上記1のほか次のとおりとする。

(1) 「体育」について、全日制の課程のすべての生徒に履修させる単位数は、9単位を下らないこと。

(2) 芸術について、すべての生徒に履修させる単位数は、3単位を下らないこと。

となっています。少なくとも、平成元年度版の学習指導要領が完全実施された平成4年4月以降は、問題になっている履修の仕方は認められません。