どうしても納得できない

教員免許更新制の法制化についての考え方

 建築士免許の更新制は見送り 国交省「他資格と整合性」という記事を読んだ後ずっと考えているのだが、どうしても納得できない。
 記事によれば、

 現行制度では建築士免許はいったん取得すれば一生有効だ。だが、偽装事件では構造計算書の偽造を元請け設計会社の建築士も見過ごした。国交省建築士の能力を定期的に確認する必要があるとみて、国交相の諮問機関の専門部会で更新制の是非を検討していた。

ということだ。「教員免許更新制の法制化についての考え方」(以下、「考え方」と表記する。)では次のように述べている。

○ 教員に必要な基本的知識・技能が不変のものであれば、一旦、大学においてその水準が保証された者に対して授与された免許状は終身有効なものとしつつ、爾後、各人の能力が低下している場合があり得るとしても、それについては、任命権者による服務監督あるいは分限処分等により対応することで足りる。
○ しかし、公教育の実施者としての教員に必要な基本的知識・技能は、本来的に、時代の進展に応じて更新が図られるべき性格を有しているものと考えられる。
 例えば、学習指導要領は、時代の要請に応じて定期的に改訂されており、新しい学習指導要領に対応した基本的知識・技能が、教員には不可避的に必要とされる。
 また、子どもの学ぶ意欲の低下への対応や、社会性やコミュニケーション能力の不足への対応、いじめや不登校などの学校不適応への対応、LD(学習障害)やADHD(注意欠陥/多動性障害)等の新たな課題への対応、学校現場における安全の確保、ニート現象などを背景とした職業・進路に関する指導の充実など、免許状取得後も教員に必要な基本的知識・技能は常に変化している。
○ したがって、公教育の実施者に必要な基本的知識・技能を一定水準以上に確保する教員免許制度においては、当該制度の趣旨・目的に鑑み、その本来的な在り方として、教員に必要な基本的知識・技能が更新されるものとして、その制度設計が行われる必要がある。

 つまり、教員でも建築士でも能力を定期的に確認する必要があるということだ。その点において両者の間にどのような差があるというのだろうか。
 記事では、

 建築士の能力は加齢によって低下するとはいえず、他の資格との整合性から更新制導入は難しいと国交省は判断した。

であるとされている。では、教員は加齢によって能力が低下するだろうか。体力は低下するとしても、能力が低下することはない。
 建築士の場合は他の資格との整合性が重視されてのに、なぜ教員の場合は他の資格との整合性を保つ必要がないのか。「考え方」では次のように述べられている。

他の職業資格との関係について

○ 公的(職業)資格制度の中には、教員免許状と同様に、求められる基本的知識・技能が時代の進展とともに変化するものがあるが、必ずしも全て更新制が導入されているわけではない。これは、それぞれの資格制度の在り方は、当該制度の特性や業務の性質に応じて、制度設計が行われるべきものであるからと考える。
○ 公的職業資格の中で更新制を導入しているものは、海技士、水先人、航空機乗組員、などであり、また、職業資格ではないが、自動車運転免許証なども、更新制が導入されている。これらの既存の職業資格等における更新制は、公共の交通安全確保のため、その身体的適性を定期的に確認したり、あるいは知識・技能の更新の必要性から設けられている。
○ 教員免許について考えてみると、教育は、その特性上、その成果を客観的かつ短期間に評価することが、他の職業資格に求められる成果と比べてより困難であり、また、教員が心身の発達段階にある幼児児童生徒(以下「児童生徒」という。)に対して強い影響力を有するという側面を有している。
 このため、児童生徒に対して、その発達段階に即して、国民として必要な知識、思考力等を培うことを職責とする教員の資格を定める教員免許制度においては、当該制度そのものの在り方として、教員に必要な基本的知識・技能の更新を制度的に担保する更新制を導入する必要性が高いと考えられる。
○ また、教員免許状における更新制は、身体的適性の定期的確認を求めるものではないが、「その時々その資格に必要な」基本的知識・技能を確保するためのものであり、前記のとおり、教員が発達段階にある児童生徒に対して強い影響力を有することを考慮すると、適切な公教育の実現を図るという強い公共の要請が認められ、他の職業資格における更新制に照らしても、バランスを欠くものではないと考えられる。

 教員については、「発達段階にある児童生徒に対して強い影響力を有することを考慮すると、適切な公教育の実現を図るという強い公共の要請が認められ」るのだという。建築士は国民の財産や生命を守る責務を負っている。これは国民に対して強い影響力を有しているのであり、そこにも当然強い公共の要請が認められるはず。だから、建築士免許が導入されてもバランスを欠くものではないはずだ。
 また、「考え方」では次のようにも述べている。

○ 既存の教員免許状が終身有効であることは、一つの既得権益でもあるが、このような権益は必ずしも絶対不可侵のものではなく、公共の福祉の要請により、合理的な範囲内で新たに制約を課すことは、なお許容し得るものと解される。

 既存の教員免許が生涯有効であることは「既得権益」であるが、それは「絶対不可侵のものではなく」、「公共の福祉の要請」によって一定の制約を課すことは許容できるものだという。では、既存の建築士免許の場合はどうか。これとは全く異なるというのだろうか。
 私は教員が資質を向上させる仕組みが全く必要ないとは考えていない。また、教員免許の更新制が導入されたから建築士に免許更新が必要だとは言わない。しかし、建築士の場合は免許更新が見送られ、教員には免許更新が導入されようとしている。その両者の取扱いに対して、なぜ、このような差がなぜ生まれるのか全く理解できない。どのような論理によるのか、どのような合理性があるのか、どのような妥当性があるのか。そういうことについてはほとんど議論されていない。なぜなのか。どうしても納得できない。