法改正は広報のため?

 5月30日に行われた、教育基本法に関する特別委員会の参考人質疑の議事録から公明党池坊保子議員と市川昭午氏のやりとりを引用する。

池坊委員 ありがとうございます。
 私も、すべての点において欠点ばかりをあげつらうのではなくて、もっといい面をしっかりと受けとめ、そしてそれを大切にする心を養っていくべきだというふうには考えております。
 市川参考人にお伺いしたいと思います。
 今の教育基本法で困ることは何もないとおっしゃいました。しかしながら、足らないところを補うところがあるとお考えにはなりませんか。それはお認めにならないのでしょうか。
 私は、伺って思いましたのは、不平や不満よりももっと、今不平や不満があるからということではなくて、もっと根源的な、教育のあり方、教育の理念を見直すべきときに来ているのではないか、時代の変遷の中にあって、二十一世紀にふさわしい教育理念、教育宣言、そういうものをするべきときに来ているのではないかというふうに思うんです。
 先ほど市川参考人は、PTAの人たちだってこの教育基本法を知らないよとおっしゃいました。それならば、こうやって教育基本法の全面改正のときを迎え、新聞にもマスコミも取り上げていただいておりますから、今それによって注目なさることがあると思うんですね。教育基本法のみならず指導要領も、お母様方、お父様方、御存じないと思います。それをちまちまと、ある部分だけの改正をしたのでは皆様に浸透していかないと思うんですね。それならば抜本的に全面改正をしたらいいと私は思いますけれども、それに対して何か支障があるのでしょうか。あるとしたら、そのあることをお聞かせ願えればと思います。

○市川参考人 お答え申し上げます。
 今の教育基本法で困ることがないというのは私の判断ではございませんで、中央教育審議会の委員の皆様及び文部科学省の方に私がお伺いしたところ、そういうことであったわけでございます。
 先生からは、逆に、改正して困るところがあるかという御質問だと思いますが、それは改正のやり方、中身にもよりますので一概にはお答えできませんけれども、二十一世紀にふさわしい理念とおっしゃいますが、それは与党案なりあるいは民主党案なりに、前文あるいは教育目標でうたわれておることだと思いますが、同じようなことは既に、先ほど来申しますように、学習指導要領にも書かれているわけであります。したがって、新しい時代にふさわしい、つまり、学習指導要領が戦後何回も改訂されまして、おおむね十年に一遍ぐらいの頻度で改正されておりまして、その時々の時代にふさわしいように改めております。それが改められることが可能なように、学校教育法なり教育基本法が弾力的に解釈できるわけでございます。
 ですから、中曽根内閣のときの臨時教育審議会におきましては、教育基本法を改正しないけれども、その教育基本法を改正しないというのは当時公明党の要望で改正しないということになったと思いますけれども、改正しないけれども新しい時代にふさわしい解釈をされるということで、今回の改正案と同じような趣旨のことを臨時教育審議会の第一部会ではおまとめになっていると思います。
 ですから、なぜ困らないかということは、幾らでも弾力的な解釈が可能である、今までもしてきたということで困らないということでございます。
 それからまた、改正しましても現在の学習指導要領とそう大きく変わるものにはならないであろう、こう判断するわけでございまして、結局現実はほとんど変わらないというふうに考えております。

池坊委員 当然、市川参考人、八つの大切な項目が入りましたことは御理解いただいていると思います。これが入りますことによって、地域、家庭、学校、すべての人々が、ああそうなんだということで、その気持ちを喚起することが、それから教育、やはりこうあるんだな、こうしなければいけないんだなというふうに考えるのではないかというふうに思っております。
 それから、学習指導要領がというお話でございました。
 確かに、教えます場合には学習指導要領がもとになってまいりますけれども、これは何も先生方だけの教育基本法ではないと私は思います。むしろ、一億二千万の総意、教育はどうあるべきか、理念、目的、そういうものをきちんと書かれている、そしてまた、私たちがこうありたいなという精神の柱でしょうか、そういうものを書き上げているのではないかというふうに思いますので、指導要領を変えたらそれで済むんだよというのは、ちょっと私は、全体的に見たときに、そうじゃないのではございませんかと申し上げたいのですけれども、もう時間が参りましたので、審議をする時間がございません。
 でも、あくまでも、これは学校現場だけではない、先生だけではない、すべての国民の総意としての教育基本法だということを私たち一人一人がこの機会に認識できたらということを願い、私の質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

 これは、冒頭で市川氏が、

中教審で審議しましたころに日本PTAが調査した結果が発表されましたけれども、国民のほとんどの方は現在の教育基本法など読んでおられない。現在の教育基本法でも読んでおられない方が、さらに長い改正法案をお読みになるであろうか、こう考えますと、もし改正されるのであれば、現在よりも短くしていただきたい、こう思います。

と述べたことについての質問。
 池坊氏は、(読み間違いでなければ)教育基本法も学習指導要領も周知されていない。教育基本法や学習指導要領が全面改正・全面改訂されれば注目度が上がり周知される。それのどこに不都合があるのかと述べている。
 教育基本法の全面改正は、教育基本法を周知させる広報キャンペーンなのだろうか。広報のために重要法案が全面改正されるというのはおかしいのではないか。そのような考えで改正されることが不都合なのだ。
 池坊氏だけでなく、この日質問に立った議員は誰も市川氏の「法改正が必要となる明確な理由がない」という主張へのまともな反論や質問、議員の側から法改正が必要な理由を明示することはなかった。教育基本法に関する議論では、そういう重要なことについての説明責任は全く果たされていないし、議論も行われていない。