アメリカの教員の給与について

 アメリカの教員の給与に関しては、中央教育審議会の教育条件整備に関する作業部会に提出された東京理科大学 伊藤稔氏の「アメリカ調査報告概要について」にデータがある。

教員給与の推移
 全米公立学校(初等・中等教育)の教員給与の平均給与は、2001-02年度、44,604ドルである。この数値は、過去10年間では、殆ど変化が見られないが、1980年代と比較すると、22%の上昇である。過去20年間の公立学校教員給与は概略以下の通りである。

 年度    教員の給与平均  初等学校教員  中等学校教員
1980-81年   36,295ドル    35,443ドル   37,319ドル
1985-86年   41,264ドル    40,477ドル   42,324ドル
1990-91年   44,022ドル    43,232ドル   45,103ドル
1995-96年   43,414ドル    42,833ドル   44,285ドル
2000-01年   44,102ドル    43,839ドル   44,469ドル
2001-02年   44,604ドル    44,424ドル   44,718ドル

(注)だたし、一般的に教員の年間給与は、勤務を10ヶ月(約180日)として算定されている。

 千葉聡子 「アメリカ公立学校教師の社会的評価と多様性の教育‐アメリカ学校教育研修参加学生の疑問から‐」では、大学の専攻別に初任給を比較すると教員の給与は他の職業、特に理数系の職種との格差が大きいことを指摘している。また、千葉氏はアメリカの教員給与の地域間格差についても指摘している。
 伊東氏の資料には、

 公立学校教員構成の概要(300万人:1999-2000年度)について

3−1:男女比率 男性: 75万人(25%) 女性:225万人(75%)

3−2:人種比率 白人: 253万人(84.3%) 白人児童生徒比率61.2%
         黒人: 23万人(7.6%)  黒人児童生徒比率17.2%
     ヒスパニック: 17万人(5.6%)  ヒスパニック比率16.3%
        その他: 7.4万人(2.5%)(アジア系4.1%、A.I 1.2%)

というのがある。これを見ると女性教員の比率が大きいことが分かる。これは、日本においては女性が出産などを経ても働ける環境であるからだと考えがちだが、アメリカでは必ずしもそういうことが要因とはなっていない。
 佐久間亜紀 「19世紀米国における教職専門職化運動批判‐メアリー・ライアンの教師教育思想と実践を手がかりに‐」では、

 ライアンは、教職は経済的野心をもたない女性こそが、全身全霊を捧げるべき聖職であり、それは結婚を妨げない短期間の一時職であると主張し、教職専門職化運動に反対していた。女性教師に対する賃金格差は、女性教師教育者自身によって正当化され、むしろ積極的に推進されていたのである。現代アメリカにおける、教師の報酬の相対的低さや、結婚や育児を機に退職する一般的教職ライフコースの史的起源の一つは、ライアンの思想に端的に表現される教師像に求められるといってよい。

と佐久間氏は指摘している。アメリカにおいて女性教員の比率が高いのは、女性にとって働きやすい環境であるという要因よりも、給与が低いことが要因となっていることが分かる。
 伊東氏の資料では、

教職員の離職率について
 アメリカ教員組合本部では、教員の離職率についての統計資料が示された。それは、全米中等学校校長会の月刊誌(NASSP)での2002年6月号の論文(pp.16‐31)を引用したものである。その概要は、教員の離職率として、1年目では14%、2年目24%、3年目33%、4年目40%、5年目46%というものである。その主たる理由について、初任給(10か月給与)の低さ、学校環境・設備の不十分さ、専門職性に対する世間の評価の低さ、さらに、大学の教員養成課程に対する評価が低い事を挙げている。そのため、慢性的な教員不足状況が続いている。

ということが示されている。アメリカの教員の離職率の高さは、給与が低いという理由以外に、「学校環境・設備の不十分さ、専門職性に対する世間の評価の低さ、さらに、大学の教員養成課程に対する評価が低い事」が挙げられている。さらに、説明責任を強調した学力テストなどの導入は、教員のストレスを増大させる要因ともなっている。
 アメリカでは常に教員不足に悩んでいる。それはここで挙げたような要因と無関係ではない。また、千葉氏は次のように指摘している。

 教員の質を高めるための教員資格の厳密化は、教員能力試験の基準やこれまでの教育環境の関係から、不足が生じている非白人教員をさらに減らしていく逆効果がある

 アメリカの教員の給与などについて見ていくと、日本のこれからの姿を見ているようだ。なぜなら、教員に対する社会的評価は教員側の要因だけでなく、教員に対するステレオタイプの見方、専門職性を否定するような動きもあって低下している。さらに給与についても見直しなどが進められているからだ。
 その結果は、教員の官僚化を推し進めることになるだろう。教員の官僚化は学校を官僚組織へとより近づけようとする改革が進められていることから、その流れは加速するだろう。