厳罰化はうまくいかない

 中野良顕「アメリカのゼロトレランスと開発的な生徒指導」『指導と評価』12月号2006年のなかで、ゼロトレランスについて「全米学校心理士協会」が指摘したことを紹介している。それが以下の8項目だ。

  1. 停学と退学は、反社会的行動を示す生徒を、保護者の監督の及ばない状況、そして他の逸脱した仲間と交流する機会を提供する状況に追いやる。そのことによって、生徒をさらなる非行へと向かわせる。
  2. 厳罰の適用が差別的になりやすい。アフリカ系アメリカ人生徒や、ヒスパニック系の生徒に、より厳格な罰的手段(停学、退学、体罰)が科される。
  3. ゼロトレランスは、特別支援教育に深刻なマイナスの影響を与える。障害児の場合、年間に連続してまたは合計して10日以上停学措置を受けた場合、学校は継続して適切な教育サービスを提供しなければならない。これは「障害個人教育法」(IDEA)によって義務づけられている。しかしゼロトレランス政策は、障害児を教職員から隔離する。問題は一層悪化し、高校中退率が増大する。
  4. 厳罰が深刻な行動だけでなく、はるかに低いレベルの軽微な規則違反にも、無差別に適用される。
  5. 校内暴力が減少しつつあるにもかかわらず、停学と退学の割合は増加した。
  6. 退学期間の長さは、ときに二、三年に及び、さらに永久退学へとエスカレートする。
  7. 停学が高率で反復適用されている。このことは停学を一度適用しても、子どもたちの問題の改善をもたらさないこと、したがって停学という処置は有効ではないことを物語る。
  8. 停学と退学の適用を繰り返すことと、中途退学率の増加とは関連する。ゼロトレランス政策は改善すべき中退率を逆に増加させる。

 教育再生会議がいじめの問題について提言した際、いじめの加害者を出席停止にしたり、別教室へ隔離するというようなことを提言に盛り込んだ。それをゼロトレランスの一つの形態として考えるなら、そういう措置についても「全米学校心理士協会」が指摘したことと同じような問題があると考えられる。
 厳罰化は、教師などの責任放棄につながる。ゼロトレランスで停学などが繰り返されたり、低レベルの規則違反にも適用されていることを見ると、そう予測することは難しくない。
 いじめにしても子どもの暴力にしても必要なことは厳罰化ではなく、それを事前に予防するような取り組みを進めるべきだと考える。そのためには、問題を抱えた子どもを子どもを支援するということが必要になる。